兼業・副業に関する動向調査2021(リクルートデータ)について

近年、労働者の兼業や副業に関する関心が高まっています。それに伴い、兼業や副業を認める人事制度の設計を検討する企業も増えてきており、そのような人事制度の設計を行う際に活用できるデータがリクルートから公表されました。

この『兼業・副業に関する動向調査2021(リクルートデータ)』は、働く個人(正社員)および企業人事担当者の調査データをとりまとめたものになりますが、今回はそれぞれの調査結果のポイントをご紹介いたします。

個人調査結果
(1)兼業・副業の実施状況

・兼業・副業を実施中、もしくは実施意向ありを合計すると55.9%となり、過半数の労働者が兼業・副業に対して実施意向があるという結果となっていまが、2020年度と比較すると、実施意向は若干減少しています。これは2021年に入り、コロナによる休業等の日数が減少したことによる影響ではないかと考えられます。

■兼業・副業の実施状況■(※単一回答) 2021年調査結果 2020年調査結果
兼業・副業実施中 9.4%
(-0.4%)
9.8%
今後の実施意向あり/過去に兼業・副業経験あり 5.6%
(+0.4%)
5.2%
今後の実施意向あり/過去に兼業・副業経験なし 40.9%
(-0.9%)
41.8%
今後の実施意向なし/過去に兼業・副業経験あり 3.2%
(+0.2%)
3.0%
今後の実施意向なし/過去に兼業・副業経験なし 40.9%
(+0.6%)
40.3%

(2)年代別で見た兼業・副業の実施状況

・年代別の兼業・副業の実施意向(兼業・副業実施中+今後の実施以降あり)の割合は年代によって大きく差がますが、若年層の方が、その意向が相当高いことがわかります。また、35歳~39歳と60歳以降以外の年齢階層では兼業・副業の実施意向がマイナスで推移しており、こちらもコロナによる休業等の日数が減少したことによる影響もあるのではないかと考えられます。

■年齢別■ 2021年調査結果 2020年調査結果
20歳~24歳 65.4%
(-3.6%)
61.8%
25歳~29歳 68.8%
(-3.9%)
64.9%
30歳~34歳 64.4%
(-4.7%)
69.1%
35歳~39歳 63.2%
(+1.4%)
61.8%
40歳~44歳 60.5%
(-0.9%)
61.4%
45歳~49歳 53.4%
(-2.9%)
56.3%
50歳~54歳 49.1%
(-1.6%)
50.7%
55歳~59歳 44.7%
(-2.2%)
46.9%
60歳以降 40.2%
(+3.2%)
37%

(3)勤務先での兼業・副業を認める人事制度の有無

・勤務先で兼業・副業を認める人事制度があるとの回答は2020年度の18.0%から19.1%に若干増加しています。また、兼業・副業制度がないとの回答は2020年度の58.7%から56.3%に若干減少しており、企業においても、兼業や副業を認める人事制度の設計が少しづつではありますが、進捗していることが見て取れます。

■兼業・副業を認める人事制度の有無 ■
(※単一回答)
2021年調査結果 2020年調査結果
兼業・副業制度がある 19.1%
(+1.1%)
18.0%
兼業・副業制度はない 56.3%
(-2.4%)
58.7%
わからない 24.5%
(+1.2%)
23.3%

(4)兼業・副業開始時の難しさ

・会社や上司から、兼業・副業実施の承認を得ることが難しかったと回答する方は約30%で、それ以外の困難な点を挙げる回答や、特に障壁や難しさはなかった(38.7%)との回答比率の方が高く、世間一般のイメージよりも、兼業や副業を開始する際のハードルは低いということが読み取れます。

■兼業・副業を開始するときの難しさ・煩雑さを感じたこと■
(※複数回答)
割合
① 特に障壁や難しさはなかった 38.7%
② 希望する仕事内容を見つけるのが難しかった  22.2%
③ 兼業・副業を探す際に、自分に合うサイトや事業者を見つけるのが難しかった 21.4%
④ 本業の会社から兼業・副業実施の承認を得るのが難しかった・煩雑だった  18.8%
⑤ 兼業先・副業先との契約手続きや仕事内容のすり合わせが難しかった  18.6%
⑥ 本業の上司から承諾を得るのが難しかった 12.6%
⑦ 家族から反対された、心配された 12.3%
⑧ その他 1.4%

(5)兼業・副業の仕事内容と主たる職業との関係 (兼業・副業実施中)

・2021年の調査結果として、非常に興味深いのは、『兼業・副業の仕事内容と主たる職業との関係』です。2020年の調査結果と比較すると、「兼業・副業の内容は、主たる職業の仕事内容とまったく関係がない」という回答が大幅に減り、「兼業・副業の内容は、主たる職業の仕事内容と(非常に)よく関係している」が増加しています。これは、自らのキャリアや職歴を活かした兼業や副業が大幅に増加していることを顕著に表すデータになります。

【図表】兼業・副業の仕事内容と主たる職業との関係 ( 兼業・副業実施中)

企業人事担当者調査
(1)兼業・副業を認める人事制度の状況

(a)従業員の兼業・副業を認める人事制度の有無
・兼業や副業を認める人事制度の有無について、2021年調査と比較して、有りの比率が若干増加しています。これも兼業や副業を認める人事制度の設計や検討が少しづつですが進んでいることが要因と考えられます。

■従業員の兼業・副業を認める人事制度の有無■
(※単一回答)
2021年調査結果 2020年調査結果
ある 50.5%
(+1%)
49.5%
ない 49.5%
(-1%)
50.5%

(b)兼業・副業を認める人事制度の導入時期
従業員の兼業・副業を認める人事制度が「ある」回答した企業のうち、72.2%の企業が直近の3年以内に兼業や副業を認める人事制度を導入しており、近年の兼業・副業に対する関心の高まりが顕著に表れているデータになります。

■従業員の兼業・副業を認める人事制度を導入した時期■
(※単一回答)
割合
1 年以内 24.6%
3 年以内 47.6%
3 年より前 19.6%
わからない 8.2%
(2)兼業・副業を認める人事制度の課題

(a)兼業・副業の人事制度の課題 兼業・副業の人事制度の課題
・兼業や副業を認める場合の人事制度の課題として、最も懸念され、企業として最も注意しなければならないのは、労働者の労働時間になります。この点に関して、企業の人事担当者の方々も課題として認識されていることが分かるデータになります。

■兼業・副業の人事制度の課題■
(※複数回答)
割合
① 労働時間の管理・把握ができない 50.0(55.6)%
② 本業に支障が出る 49.2(54.9)%
③ 従業員の長時間労働・過重労働を助長する 39.4(45.1)%
④ 情報漏えいのリスク 36.5(42.2)%
労働災害の場合の本業との区別ができない 33.1(32.5)%
⑥ パフォーマンス面で本業へ影響を与える 32.0(32.8)%
⑦ 時間面で本業へ影響を与える 29.6(35.1)%
⑧ 競業となるリスクや、利益相反のリスク 20.2(27.6)%
⑨ 人手不足や人材の流出につながる 20.0(25.0)%
⑩ 会社へのロイヤルティ低下 17.3(20.1)%
⑪ 会社の社会的信用を傷つける 8.5(7.5)%
⑫ わからない 1.3(1.1)%
⑬ 特に課題はない 5.5(3.0)%

※()内は兼業・副業を認める人事制度の導入を「検討中」と回答した企業の割合になります。

労働基準法38条には、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。ここでいう「事業場を異にする場合」とは事業主が異なる場合も含まれます。したがって、本業と副業のそれぞれの労働時間を通算した時間が当該労働者の労働時間ということになります。

例えば、本業で8時間労働した後に、アルバイトを2時間した場合、1日の労働時間は合計10時間ということになり、法定労働時間(8時間)を超えた2時間の部分は時間外労働となり、割増賃金を支払わなければなりません。それでは、この2時間分の割増賃金の支払い義務を負うのは、どちらの事業主になるのでしょうか?

通達では、後から契約した会社が割増賃金の支払い義務を負うこととされています。後から契約する会社は、労働者が現在働いている会社で、何時間就労しているのかを把握した上で、労働契約を結ぶことができるからです。また、36協定の締結義務も後から契約をした会社にあります。

➡ですので、労働者を採用する際には、他の就業先での就労の有無をしっかりと確認し、もし別の雇用主に雇用されている場合には、就労状況について十分に把握していないと、思いがけず割増賃金を支払わなければならなくなる可能性もありますので、採用時には注意が必要になります!

また、『労働災害の場合の本業との区別ができない』という点を、兼業・副業を認める人事制度の課題として挙げる企業も多く、そのような企業の人事担当者の方々は、複数事業労働者への労災保険給付(2020年9月施行)に関して、その請求等に当たって注意すべきポイントなどを再度確認する必要があるかもしれません。

➡複数事業労働者への労災保険給付の概要に関しては、こちらの厚生労働省ホームページをご確認ください。

(3)兼業・副業実施時の条件有無・支援施策

(a)従業員が兼業・副業を行う際の条件やルールの有無
・兼業や副業を認める人事制度が「ある」と回答した企業の多くが、条件やルールを設定したうえで兼業や副業を認めていることが分かります。

■従業員が兼業・副業を行う際の条件やルールの有無■(※複数回答) 2021年調査結果 2020年調査結果
ある 75.0% 73.2%
ない 18.9% 19.9%
わからない 6.1% 6.8%

(b)従業員が兼業・副業を行う際の支援施策
・兼業や副業を認める人事制度が「ある」と回答した企業のうち、条件やルールを設定していない企業も約20%となっていますが、兼業や副業を行う際の支援施策として、兼業・副業の状況を報告する場を設けていたり、兼業・副業先との労働条件通知書や契約書の提出を求める等、労働者と企業との間で、兼業や副業に関する理解を深める場を支援策として提供していることが分かります。

■従業員が兼業・副業を行う際の支援施策■
(※複数回答)
割合
① 人事部や上司、産業医に、定期的に兼業・副業の状況を報告する場を設けている 45.8%
② 兼業・副業先との労働条件通知書や契約書を提出する必要がある 35.9%
③ 兼業・副業の開始前に、人事部や上司、産業医との面談を用意している 31.7%
④ 自社へのモチベーション・ロイヤリティが可視化できる仕組みがある(アンケート・サーベイなど) 29.3%
⑤ 兼業・副業による影響や効果が検証できる仕組みがある(アンケート・サーベイなど) 21.6%
⑥ 兼業・副業に関する説明会をおこなっている(おこなったことがある) 19.8%
⑦ 兼業・副業に関する事例共有をおこなっている(おこなったことがある) 12.3%
⑧ 特に施策はない 25.1%
(4)従業員の兼業・副業を禁止する理由

兼業や副業を認める場合の人事制度の課題として、企業として最も注意しなければならないのは、労働者の労働時間になります。この点に関して、企業側も課題として強く認識されており、労働時間の管理・把握が困難である点や、兼業や副業による従業員の長時間労働・過重労働を防止するためといった点を、兼業や副業を禁止する理由として挙げる企業が多い結果となっています。

■従業員の兼業・副業を禁止する理由■
(※複数回答)
割合
① 従業員には本業に集中してもらいたいため 50.4%
② 従業員の長時間労働・過重労働を助長するため 43.1%
③ 労働時間の管理・把握が困難なため 42.9%
④ 情報漏えいのリスクがあるため 32.5%
⑤ 人手不足や人材の流出につながるため 24.5%
⑥ 労働災害の場合の本業との区別が困難なため 19.7%
⑦ 競業となるリスクがあり利益相反につながるため 19.3%
⑧ 社内に反対者がいるため 5.7%
⑨ 風評リスクがあるため 4.7%
⑩ その他 4.0%

この『兼業・副業に関する動向調査2021』では、上記以外の調査結果以外にも、兼業・副業で働く人の受け入れや活用状況に関する調査なども盛り込まれ、兼業・副業制度の検討を行う際には、かならずチェックしておきたい資料となっています。より詳細なデータを確認されたい場合は、下記リクルートホームページをご参照ください。

【参考リンク】
リクルート『兼業・副業に関する動向調査2021』データ集(2022/7/20)
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2022/0720_11468.html

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