コンビニの人手不足解消に!~1週間単位の非定型的変形労働時間制について~

意外と知られていませんが、年末年始はコンビニの最繁忙期です。コンビニのお弁当が一番売れるのは12月末、当然年末のコンビニは慢性的な「人手不足」です。当事務所にも、実働8時間を超える勤務シフトの設定に関して、コンビニオーナー様からお問い合わせをいただく場合や、従業員の方から、「1日10時間のシフトインは問題ないんですか?」といったご質問をいただくことがございます。

➡実際には、実働9時間や10時間の勤務シフトは変形労働時間制を導入することで設定可能ですが、変形労働時間制を導入するには事前に様々な手続きが必要になります。今回は、小規模な飲食店や小売業の人手不足を解消するうえで活用することができる、「1週間単位の非定型的変形労働時間制」についてご紹介していきたいと思います。

1日9時間シフトは大丈夫?

労働基準法上、1週40時間、1日8時間を超えて労働させてはいけないことになっているため、原則として、変形労働時間制を導入していない場合は、1日実働9時間の勤務シフトを設定することはできません。

36協定の締結・届出による場合

変形労働時間制を導入していない場合、原則的には1日実働9時間や10時間の勤務シフトを設定することはできませんが、会社側で必要な手続きを行なうことで、8時間(法定労働時間)勤務+1時間(2時間)の時間外勤務としてシフトを設定することができます。具体的な所定の手続きは、

① 就業規則または労働協約において、時間外労働を命じることができる旨規定されていること
② 労使間で36協定を締結していること
③ 締結した36協定を労働基準監督署長に届出していること

➡みなさんもご存じの36協定の締結・届出により、8時間(法定労働時間)を超える労働時間に対して、時間外割増賃金を支払うことで、「8時間+1時間の時間外勤務」として、実際には1日9時間の勤務シフトで労働させることが可能になります。

注意するべきは、就業規則に時間外労働の規定を設け、36協定を締結・届出をすることにより、会社が従業員に時間外労働を命じることができる場合であっても、あくまで原則は1日8時間のシフト設定とし、「8時間+1時間の時間」のシフトは例外的な取扱いにすべきです。あくまでも法定労働時間を遵守した勤務シフト設定を意識することが大切です。

1週間単位の非定型的変形労働時間制について

勤務シフトを設定する上で、かならず法定労働時間を意識しなければなりませんが、変形労働時間制を導入することで、1日8時間を超えて勤務シフトを設定することが可能になります。変形労働時間制は4種類に分類されますが、今回は小規模小売業であるコンビニの営業にマッチする「1週間単位の非定型的変形労働時間制」について見ていきましょう。

制度の概要

「1週間単位の非定型的変形労働時間制」とは、常時使用する従業員数が30人未満小売業、旅館、料理店及び飲食店において、非常に忙しい時期と、そうでない時期が生じることが多く、かつそのタイミングが定期的に定まっていない場合、1週間を単位として、1日の労働時間を10時間まで延長することを認めることにより、労働時間を効率的に配分することを可能年、全体として労働時間を短縮しようとする制度になります。

➡あらかじめ所定労働時間を1日8時間超に設定した日について、1日8時間が超える時間外労働が発生しても、その日の所定労働時間の範囲内であれば割増賃金を支払う必要はありません。ただし、この制度を導入しても1週間の法定労働時間である40時間については守らなければなりませんので、1週間のうち繁忙日の労働時間を10時間とすれば、閑散日の労働時間を8時間未満とするか、または休日とするなどの調整が必要になります。

「常時使用する従業員数」は、正社員やパート・アルバイトの方々を含むすべての従業員数をカウントします。また、この従業員数は、店舗ごとにカウントするため、多くのコンビニがこの要件はクリアできると思います。

1週間単位の非定型的変形労働時間制の導入手順

1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入するには、労働基準法で定める手続きが必要になります。法定された手続きを行なわず、1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入した場合、「30万円以下の罰金」が科せられる場合もあるので注意が必要です。

(1)従業員への周知
・1週間単位の非定型的変形労働時間制の導入によって、繁忙日には就業時間が長時間となり、今までは支払われていた割増賃金が支払われなくなる状況が生じることになるため、従業員の方々にとって不利益が生じることになります。ですので、従業員の方々に、変形労働時間制を導入する必要性について丁寧に説明し、理解を求めていく必要があります。

(2)労使協定の締結と届出
・1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入するためには、従業員の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、従業員の過半数で組織する労働組合がない場合には従業員の過半数を代表する者との間で、1週間単位の非定型的変形労働時間制のルールを定め、労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出ます。

なお、労使協定書に関しては、厚生労働省 労働基準法関係主要様式ページの様式第5号(1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する協定届)を労使協定書とすることも可能です。

➡参考リンク:厚生労働省 労働基準法関係主要様式 1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する協定届

(3)就業規則への規定・届出
・(2)の労使協定の締結・届出と併せて、就業規則の変更・届出が必要になります。「1週間単位の非定型的変形労働時間制を適用する旨」、「対象労働者の範囲」や「週の起算日」等の必要事項を就業規則に明記することになります。従業員数10人未満の店舗では就業規則の作成・届出の義務はありませんが、就業規則に準ずるものを定め、書面で従業員に通知することをお勧めします。

1週間単位の非定型的変形労働時間制の導入にあたっての就業規則の変更については、労働組合または労働者代表の意見を聴取する必要がありますので、意見書を作成し、就業規則(変更)届と併せて、労働者代表の意見書も届け出なければなりません。なお、労働組合または労働者代表の意見書については以下、神奈川労働局ホームページからダウンロード可能になります。

➡参考リンク:神奈川労働局 労働基準法関係【参考書式(様式/記載例)】

(4)シフト表の作成・配布
・労使協定で定める1週間の起算日の前日までに、翌週のシフト表を作成して、従業員に通知します。通知したシフト表の労働時間については、「緊急でやむを得ない事由がある場合」に限り変更できますが、変更するためには変更しようとする日の前日までに書面で従業員に通知しなければなりません。

この「緊急でやむを得ない事由がある場合」とは「台風の接近や豪雨等の天候の急変等客観的事実により当初想定した業務の繁閑に大幅な変更が生じた場合」とされており、会社側の主観的な事情による理由は認められませんので注意が必要です。

1週間単位の非定型的変形労働時間制の導入の際の注意点

1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入した場合でも、18歳未満の従業員に適用することはできません。また、妊産婦の従業員についても、ご本人から請求があれば、1日8時間、1週40時間を超えて労働させることはできません。また、育児や介護を行っている従業員の方についても、その育児や介護を行うために必要な時間を確保できるよう配慮することが求められますので注意が必要です。

1週間単位の非定型的変形労働時間制導入のすすめ

この「1週間単位の非定型的変形労働時間制」は、利用できる事業所は限られていますが、「常時使用する従業員数」は、店舗ごとにカウントするため、多くのコンビニが利用できる変形労働時間制になります。労働時間を弾力的に調整することで、繁忙期の人手不足を解消するうえで、有効活用できる制度であるとも言えます。

ただし、法定された手続きを行なわずに1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入した場合、「30万円以下の罰金」が科せられる場合もあるので注意が必要です。導入にあたり、ご不明な点があればぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。

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