早期退職制度について考える ①

労働者にとって転職が当たり前となった時代、会社のみならず労働者側にもメリットのある制度として「早期退職制度」が注目されており、実際に早期退職制度を導入する会社も増えつつあります。「早期退職制度」とは、労働者が自らの意思で、自主的に早期退職を選択できる制度になりますが、一般的にはネガティブなイメージで捉えられることも少なくなく、その制度の趣旨が正しく理解されていないと感じることがあります。

そこで、この「早期退職制度」について、その趣旨、会社が導入するメリットやデメリット、労働者が早期退職制度を利用する際の注意点などについて、3回に分けて解説していきたいと思います。1回目となる今回は、早期退職制度とはどのような制度なのか、また、他の制度との相違点などについてご紹介していきます。

早期退職制度とは

早期退職制度とは、定年前の社員が、自分自身の意思により退職を選択する制度のことをいいます。早期退職を選択した場合、通常の定年退職時よりも退職金が上乗せされたり、再就職のサポートが受けられるなど、社員に対する福利厚生制度の1つとして導入されている制度になります。会社が社員に対して退職を勧奨するものではなく、退職するかどうかを決定するのは、あくまで社員自身になります。そのため、この早期退職制度は自己都合退職の取扱いとなります。

早期退職制度の動向について

早期退職制度」と聞くと、一般的には希望退職募集制度リストラと混同され、会社が赤字になった場合に、人件費の削減を目的に行われるといったイメージを持たれる方が多いと思いますが、早期退職制度は、社員に対する福利厚生制度の1つであり、近年では業績が悪化していない会社であっても、この早期退職制度を福利厚生の一環として導入するケースが増えています。

東京商工リサーチが令和4年年11月に公開したデータを見ますと、令和4年の1月~9月の間に、早期退職、または希望退職募集を行った企業の54.5%が黒字であるという結果になっています。
➡参考リンク:東京商工リサーチ 2022年(1-9月)上場企業「早期・希望退職」実施状況

つまり、多くの企業が、人員整理の手段としてではなく、人材を再配置することにより、新しい事業を創出したり、業務の効率化を図ることを目的として、この「早期退職制度」を導入しているのが近年の動向になります。

他の制度との相違点について

早期退職制度とは、定年前の社員が、自分自身の意思により退職を選択する制度のことをいいますが、一般的にはその目的や趣旨が正しく理解されていないと感じることがあります。早期退職制度と類似する制度として、「希望退職募集制度」や「選択定年制」などの制度がありますが、それぞれ「早期退職制度」と比較して、どのような点が違うのかを見ていきましょう。

希望退職募集制度との違い

・早期退職制度と同様、希望退職募集制度も退職金の上乗せや再就職支援などが社員に対して行われますが、早期退職制度が、社員の福利厚生の一環として、社員の意思により「常に応募できる制度」であるのに対し、希望退職募集制度は、「期間限定での退職者募集制度」であり、この点が大きく違います。

➡また、どちらの制度も、社員から退職の申出を行うことになりますが、早期退職制度の場合は、社員の意思による退職として、「自己都合退職」扱いとなるのに対し、希望退職募集制度では、会社側の都合により退職希望者を募集するため、「会社都合退職」の扱いになります。また、希望退職募集制度による退職者募集は「退職勧奨」を実施した取扱いとなる点にも注意が必要です。

選択定年制との違い

・早期退職制度に近い制度として、「選択定年制」という制度があります。この制度は、あらかじめ会社側で定年年齢期間を定めておき、社員がその期間内で、自分の希望する定年年齢を会社側と協議した上で決定できる制度になります。会社が定めた定年年齢期間に入る前に、対象となる社員に対し制度の趣旨や、定年年齢の意思確認を行います。

➡実務上は、この意思確認を行う際に、定年後も継続勤務を希望する社員に対しては「継続雇用制度」についての意思確認も行います。この「選択定年制」は、社員自身が定年年齢を選択する制度になりますので、早期退職制度とはその趣旨が異なります。

リストラとの違い

・早期退職と聞いてネガティブなイメージを持つ方の多くが、早期退職とリストラとを混同されている場合が多いのではないのでしょうか。皆様のイメージどおり、リストラとは、会社の経営不振などを理由に、人員整理の一環として社員を「解雇」する制度です。リストラは、早期退職制度よりも希望退職募集制度に近い制度になりますが、同じ会社都合であっても、希望退職募集制度が退職希望者を募る制度であるのに対し、リストラは会社からの一方的な「解雇」であり、そこには社員の意思は反映されず、その「強制力」が全く違います。

➡早期退職制度を利用して退職する場合、これからのセカンドキャリアへの励ましや祝福を受けて退職することになると思いますが、リストラの場合は、そのような退職の場面は期待できません。それくらいの違いがあります。

■早期退職制度の対象となる年齢について■
➡早期退職制度の対象となる年齢は、制度を導入している会社により異なりますが、それぞれの会社の定める定年年齢に達するまで、5~15年以内の社員を対象にするケースが多いようです。ちなみに国家公務員の早期退職制度では、定年前15年以内、勤続年数20年以上の職員を対象としています。

最後に

まだまだネガティブなイメージの伴う「早期退職制度」ですが、労働者にとっては、退職金や再就職支援といったサポートを受けられるだけではなく、転職が当たり前となった時代、有意義なセカンドキャリアを築く良いきっかけとなる場合も多いと思います。もちろん会社にとっても、組織の再編や若返り、人件費の削減を図ることなど、メリットの多い制度です。

今回は、早期退職制度について、制度の概要や他制度との違いについて紹介いたしました。次回は、会社が早期退職制度を導入するメリットやデメリット、また社員が早期退職制度を利用する際、どのような点について注意すべきか等について解説していきたいと思います。

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