建設業許可取得後に必要な各種手続きについて
建設業を営む事業者は、軽微な建設工事(※)を請け負う場合を除き、建設業許可が必要となります。建設業許可を取得するには、許可要件を証明するため必要書類を収集し、多岐にわたる申請書類を作成して申請しなければならず、非常に手間と時間がかかります。さらに建設業許可を取得すると、事業者は建設業法に定める「建設業者」として、様々な規定の適用を受けることになります。今回は建設業許可取得後、許可を維持していくために必要となる手続きやポイントについて解説していきます。
(※)軽微な建設工事とは、次の工事に該当する工事をいいます
① 建築一式工事の場合 | ➡次のいずれかに該当する工事 (a)工事1件の請負代金の額が1,500万円(税込)未満の工事 (b)請負代金の額に関わらず、延べ面積が150㎡未満の木造住宅を建設する工事 |
② 建築一式工事以外の工事の場合 | ➡工事1件の請負代金の額が500万円(税込)未満の工事 |
目次
定期的に必要となる手続き
建設業許可取得後、定期的に必要となる手続きとして、決算変更届(事業年度終了届)や5年ごとの更新申請があります。それぞれ建設業法で定められた必須の手続きになりますので、法定期限内に提出できるよう、適切に準備しておくことが大切です。
決算変更届(事業年度終了届)
決算変更届(事業年度終了届)は、事業年度が終了した際の事業報告手続きで、直前事業年度の工事実績と決算内容についての届出になります。法人で建設業許可を取得された場合は決算日、個人事業主であれば12月31日から4か月以内に提出する必要があります。
(1)提出書類/提示書類(神奈川県知事許可を受けている場合)
提出書類 | ① 決算変更届 |
② 工事経歴書(様式第2号) | |
③ 直前3年の工事施工金額(様式第3号) | |
④ 財務諸表 ※法人用と個人用は異なります。 |
|
⑤ 事業報告書(株式会社の場合) | |
⑥ 納税証明書 ※知事許可は「事業税」、大臣許可は「法人税」又は「所得税」の納税証明書 |
|
提示書類(窓口提出の場合) | ① 現在有効な許可申請書の副本 ※商号、代表者、所在地などに変更事項があった場合は、その変更届出書の副本も持参 |
② 前年度の決算変更届の副本 |
➡決算変更届の届出を怠ると、5年ごとの更新、業種追加や経営事項審査の申請ができなくなるだけではなく、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金刑等の対象となる場合もあります(建設業法第50条)。必ず法定期限遵守で提出しなければなりません。
更新申請
建設業許可は、許可を受けた日から5年間で有効期間が満了します。更新申請は、すでに受けている建設業許可について、有効期間を超えてそのまま継続する場合に必要な手続きになります。建設業を継続する場合は、許可が満了する日の3か月前から30日前までの間に更新の手続きが必要です。更新申請を行わず、許可の満了日を経過すると、許可が失効してしまい、許可が必要な場合には、もう一度新規に申請をしなければならず、許可番号も変更されます。
➡更新申請の際に決算変更届や各種変更届が未提出である場合は、更新申請が受理されません。更新申請を行う前に、以下の点に注意が必要です。
① 決算変更届はもれなく届出されているか |
② 役員変更があった場合、役員等の就退任の届出はされているか |
③ 所在地や商号等に変更があった場合、変更届は提出されているか |
④ 専任技術者の変更(出入り)があった場合、専任技術者の変更届は提出されているか |
⑤ 特定建設業許可の場合、直前の決算で財産的基礎要件を満たしているかどうか |
⑥ 経営業務の管理責任者や専任技術者の常勤性を証明する書類(健康保険被保険者証等)があるかどうか |
変更事項に関わる届出
建設業許可新規取得時から事実関係(届出事項)に変更が生じたときは、速やかに変更届を提出しなければなりません。商号等の基本事項のほか、許可要件に関わる項目(専任技術者の入替え等)には、許可申請時同様の添付書類や確認資料が必要です。届出事項、添付書類、届出期限は以下の表のとおりになります。
NO | 届出事項 | 添付書類 | 届出期限 |
① | 商号(名称)・組織変更 | 登記簿謄(抄)本 又は履歴事項全部証明書 |
30日以内 |
② | 営業所の名称・所在地 | 登記簿謄(抄)本 又は履歴事項全部証明書 |
30日以内 |
③ | 従たる営業所の新設 | 1 ⑩の届出書類 2 ⑫の届出書類 3 営業所の確認資料 |
30日以内 |
④ | 従たる営業所の廃止 | 1 令3条使用人の一覧表(様式第11号) 2 ⑫の届出書類 |
30日以内 |
⑤ | 従たる営業所の業種追加 | ⑫の届出書類 | 30日以内 |
⑥ | 従たる営業所の業種廃止 | ⑫の届出書類 | 30日以内 |
⑦ | 資本金額 | 1 株主調書(様式第14号) 2 登記簿謄(抄)本又は履歴事項全部証明書 |
30日以内 |
⑧ | 役員等の就退任 | 1 誓約書(様式第6号) 2 新任役員の調書(様式第12号) 3 登記簿謄(抄)本又は履歴事項全部証明書 4 新任の役員の登記事項証明書及び市町村長の証明書(身分証明書) ※退任だけの場合は、退任日のわかる登記簿謄(抄)本又は履歴事項全部証明書のみ添付 ※相談役・顧問・株主等の場合は、3・4は不要 |
30日以内 |
⑨ | 支配人 | 1 誓約書(様式第6号) 2 令3条使用人の一覧表(様式第11号) 3 令3条使用人の調書(様式第13号) 4 登記簿謄(抄)本又は履歴事項全部証明書 5 新任の支配人の登記事項証明書及び市町村長の証明書(身分証明書) ※退任だけの場合は、退任日のわかる登記簿謄(抄)本又は履歴事項全部証明書のみ添付 |
30日以内 |
⑩ | 令3条に規定する使用人 | 1 誓約書(様式第6号) 2 令3条使用人の一覧表(様式第11号) 3 令3条使用人の調書(様式第13号) 4 新任の令3条使用人の登記事項証明書及び市町村長の証明書(身分証明書) 5 現在の常勤性の確認資料(健康保険証の写し(原本証明)等) |
変更後2週間以内 |
⑪ | 経営業務の管理責任者 | 1 経験に係る確認資料 2 登記簿謄本又は履歴事項全部証明書 3 変更時等の常勤性の確認資料(健康保険証の写し(原本証明)等) ※削除の場合は届出書(様式第22号の3) |
変更後2週間以内 |
⑫ | 専任技術者 | 1 経験に係る確認資料 資格者証等の写し(原本提示又は原本証明) 卒業証明書 実務経験証明書(様式第9号) その他確認資料 2 変更時等の常勤性の確認資料(健康保険証の写し(原本証明)等) ※削除の場合は届出書(様式第22号の3) |
変更後2週間以内 |
⑬ | 国家資格者等監理技術者 | 1 経験に係る確認資料 資格者証等の写し 卒業証明書 実務経験証明書(様式第9号) 指導監督的実務経験証明書(様式第10号) |
事業年度終了後4か月以内 (削除の場合は速やかに) |
⑭ | 健康保険等の加入状況(※) | 健康保険等の加入状況に関する確認資料 | 事業年度終了後4か月以内 |
(※)健康保険等の加入状況の届出提出について
➡令和2年10月1日の改正建設業法の施行にともない、建設業許可の取得要件に「適切な社会保険の加入」の要件が加えられました。そのため、建設業許可を新規で取得するときだけでなく、更新申請の際も、適切な社会保険に加入しているかどうかが確認されることになります。健康保険等(健康保険・厚生年金保険・雇用保険)の加入状況については、申請時の内容から以下のような事実が生じた場合に提出が必要になります。
変更のあった事実 | 提出期限 |
① 健康保険等に加入する従業員数に変動があった場合 | ➡事業年度終了後4か月以内 |
②加入状況に変更があった場合 (例)雇用保険被保険者となる従業員を初めて雇用した場合など |
➡変更の事実が発生後2週間以内 |
許可業種の追加
(1)業種追加申請
・一般建設業許可を取得している建設業者が、他の建設業について一般建設業許可を申請する、または特定建設業許可を取得している建設業者が、他の建設業について特定建設業許可を申請することをいいます。例えば、一般建設業許可(大工工事業許可)のみ取得している建設業者が、一般建設業許可の左官工事業の業種を追加する場合などが該当します。
(2)般・特新規申請
・一般建設業許可のみ取得している建設業者が、新たに特定建設業の許可を申請すること、または特定建設業許可のみ取得している建設業者が、新たに一般建設業の許可を申請することをいいます。例えば、一般建設業許可のみ取得している建設業者が、その一般建設業許可を特定建設業許可に切り替える場合や、一般建設業許可のみ取得している建設業者が、特定建設業許可の「他の業種」を追加する場合などが「般・特新規申請」に該当します。許可業種を増やすための手続きは下表のようになります。
<許可業種を増やすための手続き>
現在取得する許可区分 | 追加する許可 | 必要な手続き |
一般建設業許可/特定建設業許可いずれか一方のみ保有 | すでに取得している許可区分と同じ区分の他の業種 | 業種追加申請 |
異なる許可区分の許可 | 般・特新規申請 | |
一般建設業許可/特定建設業許可いずれも保有 | (区分は問わない) | 業種追加申請 |
➡許可業種を追加するための(1)業種追加申請や(2)般・特新規申請は、追加する業種について専任技術者などの要件を満たす必要があるのはもちろん、新規許可申請に準じた方法で申請することになるため、許可取得までに時間を要します。また、新規申請と同様に扱われますので、別途審査手数として法定費用等(50,000円)が必要になります。なお、この申請で許可となった場合、すでに取得している許可業種と異なる許可年月日になります。
営業所の新設に係る手続き
営業所を新設する場合に必要となる手続きは、新設する営業所の所在地と、現在の建設業許可の区分(都道府県知事or国土交通大臣許可)によって変わってきます。1つの都道府県にのみ営業所を設置している場合は「都道府県知事許可」、2つ以上の都道府県に営業所を設置している場合は「国土交通大臣許可」となります。営業所の新設に関する手続きは以下の表のとおりになります。
<営業所新設に関する手続き>
➡営業所新設の手続きが「建設業許可変更届(従たる営業所の新設の届出)」の場合、届出の時点で新しい営業所が設置されていることになります(事後手続き)。一方、「新規許可換え申請」の場合には、申請に対し審査が行われ、許可を取得するまでは、新しい営業所で建設業務を行うことができませんので注意が必要です。
営業所の許可業種を追加する手続き
「営業所の許可業種を追加する」には、その状況によって必要な手続きが異なります。つまり、(1)すでに取得している許可について、営業所にその許可業種を追加する場合と、(2)現時点では取得していない許可を取得し、その許可業種を営業所に追加する場合とでは必要となる手続きが異なります。具体例をあげて解説します。
<具体例>
甲社(国土交通大臣許可) | 東京本社 | 【許可業種称】建、大、左、塗、内 |
横浜支社 | 【許可業種称】建、大 |
※東京本社、横浜支社ともに一般建設業許可
(1)横浜支社に内装仕上工事業の一般建設業許可を追加したい
(2)横浜支社にガラス工事業の一般建設業許可を追加したい
(1)のケースでは、建設業許可変更届を提出します。甲社はすでに内装仕上工事業の許可を取得しているため、横浜支社に内装仕上工事業の業種を追加することは変更届で可能になります。なお、変更届となるため、横浜支社に内装仕上工事業の業種を追加した後の届出で問題ありません(事後手続き)。
(2)のケースでは、建設業許可業種追加申請が必要になります。ガラス工事業は甲社が取得していない建設業許可業種になりますので、建設業許可業種追加「申請」となり、申請に対する審査が完了し、許可の取得までに時間を要します。甲社の横浜支社では、許可が取得できるまではガラス工事業を請け負うことはできません。また、建設業許可業種追加申請には申請手数料(50,000円)が必要となります。
その他必要となる手続き
建設業許可を受けた建設業者は、許可を受けた内容を標識にした建設業許可票を建設業の営業所内に掲出しなければなりません。この建設業許可票ですが、縦35cm以上、横40cm以上の長方形とするよう、大きさの指定もあります。材質の指定は特にありません。また、建設業許可票は許可を受けた建設業者自身で制作(依頼)しなければなりません。
また、法人を解散した、許可要件を満たさなくなった、また建設業から撤退したなど建設業を営むことができなくなったときは、廃業届を提出する必要があります。廃業届は廃業事由から30日以内(許可行政庁によってはすみやかに)に提出する必要があります。
最後に
建設業許可取得は、建設業者様にとってさまざまなメリットをもたらします。軽微な建設工事を超える建設工事を請け負うことができるようになり、社会的信用力も高まり、公共工事への入札参加も視野に入れることができます。一方、建設業許可を取得するということは、「建設業法」に定めるさまざまな規定の適用を受けるということになり、許可取得後も建設業を継続して営んでいくためには、今まで以上に様々な手続きが義務付けられます。
当事務所では、本業でお忙しい建設業者様に代わって、煩雑な手続きをしっかりとサポートさせていただきます。建設業許可取得後の各種手続きは、ぜひFLAT行政書士事務所へお任せください。
お気軽にお問い合わせください。
TEL:045-262-0214
受付時間:9:00-18:00(土曜・日曜・祝日除く)