建設業における労働時間・休憩・休日について考える
・まずはじめに、労働時間や休日について、法律(労働基準法)では原則、次のように定められています。
労働時間・休日の原則 |
① 1日の労働時間の上限は8時間以内とする |
② 1週間の労働時間の上限は40時間以内とする |
③ 少なくとも週1日以上の休日を与える |
これらの規定に違反した場合、「6箇月以以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられます。また、労働者に時間外労働や休日労働をさせる場合には、36協定(会社と労働者との間の時間外労働に関する合意)を結び、労働基準監督署へ届け出なければなりません。
➡では、建設業を営む会社での労働時間はどのようになっているでしょうか。建設業における勤務シフト、所定労働時間については、次の3つのパターンが一般的です。
勤務シフト | 休憩時間 | 実労働時間 |
① 8:00~ 17:00 |
12:00~ 13:00 |
実働8時間 |
② 8:30~ 17:30 |
12:00~ 13:00 |
実働8時間 |
③ 9:00~ 18:00 |
12:00~ 13:00 |
実働8時間 |
①~③のいずれのパターンも1日の労働時間は「8時間」ですので、1日単位でみると労働基準法違反にはなりません。しかしながら、中小規模の建設会社の場合、「完全週休2日制」を導入している割合は非常に少なく、土曜出勤は当たり前になっています。
そうなると、1日8時間で週6日勤務=1週48時間の労働となり、1週間単位でみると40時間を超えている(1週48時間)ため労働基準法違反となってしまいます。この場合は当然、1週間あたり8時間分の割増賃金を支払わなければなりません。では、建設業において、法律で認められる範囲内での(所定)労働時間と(所定)休日を検討した場合、どのようなパターンが考えられるでしょうか。詳しく見ていきましょう。
日曜日を法定休日として休憩時間を増やす
月曜~土曜日の週6日勤務、勤務シフトが8:30~17:30の会社の場合
拘束時間 | 9時間 |
休憩時間 | 2時間20分(140分)付与 |
1日の実労働時間 | 6時間40分 |
1週あたりの 総労働時間 |
40時間 |
このパターンであれば、労働基準法で定められる上限(1日8時間以内/1週40時間以内)の範囲内となります。また、17:30以降の残業が一切発生しないのであれば、36協定(会社と労働者との間の時間外労働に関する合意)の締結・届出も不要です。
1日あたり2時間20分(140分)の休憩時間というと、「休憩時間を与えすぎでは?」とお考えになるかもしれません。しかしながら、建設現場でのお仕事は高い場所での作業、危険を伴う機械の使用など、普通のお仕事と比べて(労災)事故が起こる可能性も高く、十分な休憩を与えることで、事故防止につながるとも考えられます。
「休憩」に関するルールについて
➡労働基準法では、「休憩」についてのルールも定められています。会社は、労働時間の「途中」に、労働時間の長さに応じて、次の休憩時間を与えなければなりません。また、休憩時間は労働者に「自由に」利用させなければなりません。
労働時間(1日) | 休憩時間 |
① 6時間以内 | 不要 |
② 6時間を超え 8時間以内 |
少なくとも45分 |
③ 8時間を超える場合 | 少なくとも1時間 |
④ 8時間を超えて、時間外労働が長時間に及ぶ場合 | 少なくとも1時間の付与で足りる |
→上記①~④の時間以上の休憩時間を与えることは全く問題ありません
建設業の場合、休憩時間は一斉に与えなければなりません。一斉に休憩を与えず、バラバラに休憩を与える場合には、「労使協定」を結ぶ必要があります。
土曜日の労働時間を時間外労働とする
つまり、完全週休二日制を導入し、1週40時間を超える土曜日の労働時間を時間外労働とし、土曜日の労働時間分の時間外割増賃金を支払う方法です。また、月~金曜日の各日についても、1日8時間を超える部分は時間外割増賃金を支払う必要があります。この方法による場合には、36協定(会社と労働者との間の時間外労働に関する合意)を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
割増率と1時間あたりの賃金額の計算方法
割増率(割増賃金の率) | |
時間帯 | 割増率(※) |
時間外労働 | 2割5分以上 (5割以上) |
休日労働 | 3割5分以上 |
深夜労働 (22:00~5:00) |
2割5分以上 |
時間外労働+深夜労働 | 5割以上 (7割5分以上) |
休日労働+深夜労働 | 6割以上 |
(※)()は、1か月について、時間外労働が60時間を超えた場合の60時間を超える時間についての割増率になります。
1時間あたりの賃金額の計算方法 | |
賃金形態 | 計算方法 |
① 時間給 | ➡時間給の金額 |
② 日給 | ➡日給の金額を1日の所定労働時間数(日によって所定労働時間数が異なる場合には、1週間の1日平均所定労働時間数)で割った金額 |
③ 週休 | ➡週給の金額を週の所定労働時間数(週によって所定労働時間数が異なる場合には、4週間の1週平均所定労働時間数)で割った金額 |
④ 月給 | ➡月給の金額を月の所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間の1か月平均所定労働時間数)で割った金額 |
⑤ 出来高払制や請負制によって定められた賃金 | ➡賃金の算定期間中に受けた賃金の総額をその期間中の総労働時間数で割った金額 |
変形労働時間制の導入
労働時間の原則(1日8時間/1週40時間)のほか、現場の忙しい時期の所定労働時間を長くする代わりに、工事の受注が少なく落ち着いている時期の所定労働時間を短くするといったように、業務の繁閑に応じ、会社と労働者が工夫しながら労働時間の配分を行い、これによって全体として所定労働時間を法定労働時間である1週40時間以内とする「変形労働時間制度」という制度があります。
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制とは、1か月を超え1年以内の期間を平均し、1週間当たりの労働時間が40時間を超えないこと等を要件として、業務の繁閑に応じ労働日数や労働時間を配分する制度のことです。具体的には、1年間を365日とした場合、1年間の総労働時間は2,085時間(365÷7×40時間(法定労働時間)≒2,085時間)となります。この年間総労働時間数を1年間で、一定の要件の下に、労働日や労働時間数を割り振ることができます。1年間のうち忙しい月に労働日や労働時間数を増やし、それ以外のお正月やゴールデンウィーク、お盆休みなどで、休日数を増やすことも可能です。この制度を利用するためには、労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
※年間労働日数の上限と年間休日日数の計算方法(所定労働時間が8時間の場合)
2,085日÷8時間≒260日/365日-260日≒105日
➡1年間での労働日数の上限は260日、1年間に必要な休日日数は105日となります。
・1年単位の変形労働時間制を採用した場合の法定時間外労働の考え方は次のとおりになります。
① 1日について | ➡労使協定で所定労働時間が法定労働時間を超える日とされている日については、その所定労働時間を超えた時間、所定労働時間が8時間以内とされている日については8時間を超えた時間 |
② 1週について | ➡労使協定で週の所定労働時間が40時間を超える時間とされている週については、その所定労働時間を超えた時間、週の所定労働時間が40時間以内とされている週については、40時間を超えた時間(ただし①で時間外労働となる時間は除きます) |
③ 1年間について | ➡1年における法定労働時間の総枠を超えた時間(ただし①および②で時間外労働となる時間は除きます) |
建設業における時間外労働の上限規制
これまで建設業では他の業種と同じように、36協定の届出義務はあったものの、届出さえすれば残業は無制限にできてしまうという状況でした。しかし建設業においても2024年4月から、次のような時間外労働の上限が定められました。
建設業における時間外労働の上限規制(2024年4月~) | |
36協定を締結・届出 | 時間外労働は原則月45時間かつ年360時間以内 |
特別条項付き36協定を締結・届出 | ① 年720時間以内 ② 年720時間の範囲内で (a)2~6か月を平均していずれも80時間以内(休日労働を含む) (b)1月100時間未満(休日労働を含む) (c)月45時間を上回る月は年に6回まで |
建設業では、現場に直行直帰で出勤する従業員もいることから、日報などで勤怠管理を行うことも多く、正確な労働時間を把握しづらいという事情がありますが、2024年4月からの時間外労働の上限規制にしっかりと対応するためにも、始業時刻・終業時刻を正しく記録するシステムの検討や、労働時間や休日に関するルール(就業規則や社内規定等)の整備等を進めることが大切になってくるのではないでしょうか。
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