従業員数が50人以上の事業場に課せられる義務について
会社の事業拡大にともない、新たな採用計画についてのご相談は、私にとっても非常にうれしいご相談です。一方、従業員数が増えることで、会社として義務付けられる点も多くなってきます。今回は従業員数が50人以上となった場合の会社に義務付けられるポイントについて、労働安全衛生面や社会保険適用拡大の点から詳しく解説していきます。
目次
労働安全衛生面から義務付けられること
「労働安全衛生法」において、常時使用する労働者(※1)が50人以上の事業場(※2)には、労働者の安全と衛生を守るため、様々な義務が課せられます。労働安全衛生法上、事業者に義務付けられる事項は以下のとおりになります。
(※1)「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく、パート・アルバイト・契約社員等の臨時的労働者も含まれます。
(※2)「事業場」とは事業を行う場所のことを指します。1つの事業場であるかどうかは、同一の場所にあるものは原則として1つの事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別々の事業場と判断されます。つまり、企業全体ではなく、場所ごとに1つの事業場として扱われることになります。
衛生管理者の選任(労働安全衛生法12条)
衛生管理者とは、従業員の健康障害や労働災害を防止するため、職場の環境衛生を管理する専門家です。衛生管理者は労働安全衛生法に基づく国家資格であり、事業場において、従業員数が50人以上となった場合、14日以内に選任し、選任後は遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告しなければなりません。衛生管理者を選任しなかった場合、50万円以下の罰金に処せられます。
(1)衛生管理者の職務
・衛生管理者の職務は、総括安全衛生管理者の職務とされる事項のうち、衛生に係る技術的事項とされています。例えば、健康に異常がある者の発見および処置、救急用具等の点検および整備、衛生教育などがあります。これらの活動のほか、少なくとも毎週1回作業場等を巡視し、設備や作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに労働者の健康障害を防止するための措置を講じる必要があります。また、衛生管理者の選任数は事業場の規模によって異なります。必要とされる衛生管理者の選任数は以下の通りになります。
【衛生管理者の選任数】
事業場の規模(常時使用労働者数) | 衛生管理者数 |
50人以上200人以下 | 1人以上 |
200人を超え500人以下 | 2人以上 |
500人を超え1,000人以下 | 3人以上 |
1,000人を超え2,000人以下 | 4人以上 |
2,000人を超え3,000人以下 | 5人以上 |
3,000人を超える場合 | 6人以上 |
(2)衛生管理者の要件
・衛生管理者は次の資格を有する者のうちから選任する必要があります。
衛生管理者の要件 |
① 都道府県労働局長の免許を受けた者 (a)第1種衛生管理者免許 (b)第2種衛生管理者免許(※) (c)衛生工学衛生管理者免許 |
② 医師または歯科医師 |
③ 労働衛生コンサルタント |
④ その他厚生労働大臣の定める者 |
(※)有害業務と関係の深い業種においては、第2種衛生管理者免許を有する者を衛生管理者として選任することができないことになっています。
衛生委員会の設置(労働安全衛生法18条)
事業者は、業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに衛生委員会を設置しなければなりません。衛生委員会とは、労働者の健康障害の防止や健康の保持増進、労働災害の防止についての基本となる対策について、労働者の意見を反映させた上で調査審議を行い、事業者に対し意見を述べることを目的とする委員会になります。衛生委員会は毎月1回以上開催する必要があります。また、衛生委員会の議事の概要を労働者に周知し、議事の重要事項を記録して3年間保存することが義務付けられています。
※林業や建設業などの一定の業種では、使用労働者数が常時50人以上となる場合、安全委員会の設置も必要となります。衛生委員会および安全委員会の両方を設置しなければならない場合、それぞれの委員会の設置に替えて、安全衛生委員会を設置することができます。
➡関連ブログ:衛生委員会の効果的な活用について
産業医の選任(労働安全衛生法13条)
業種にかかわらず、常時50人以上の労働者(※1)を使用する事業場(※2)においては、産業医の選任が義務付けられています。事業者は、産業医を選任すべき事由は発生した日から14日以内に選任し、かつ選任したときは、遅滞なく選任報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。産業医の選任義務があるにも関わらず、産業医を選任していなかった場合は、50万円以下の罰金に処せられます。
(※1)労働者数には、正社員だけでなくパートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣社員も含めて労働者数を判断します。
(※2)事業場とは、事業を行う場所のことを指します。1つの事業場であるかどうかは、同一の場所にあるものは原則として1つの事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別々の事業場と判断されます。つまり、企業全体ではなく、場所ごとに1つの事業場として扱われることになります。
(1)産業医の職務
・産業医の主な職務は以下のとおりです。
産業医の職務 |
① 労働者の健康管理等を行うこと |
② 健康診断やストレスチェックの実施およびその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること |
③ 長時間労働者、研究開発業務に従事する労働者、高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者に対する面接指導と、その結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること |
④ ストレスチェック結果において心理的負担の高い労働者への面接指導、およびその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること |
⑤ 作業環境の維持管理に関すること |
⑥ 作業の管理に関すること |
⑦ 健康教育、健康相談、その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること |
⑧ 衛生教育に関すること |
⑨ 少なくとも毎月1回(産業医が、事業者から毎月1回以上、労働者の健康を保持するのに必要な情報等の提供を受けている場合であって、事業者の同意を得ているときは少なくとも2か月に1回)作業場等を巡視し、作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講ずること。 |
(2)産業医の選任数と専属義務
・産業医は業種にかかわらず、常時50人以上の労働者を使用する場合に選任しなければなりませんが、常時使用する労働者数が3,000人を超える事業場にあっては2人以上の産業医を選任しなければなりません。
事業場の規模(常時使用労働者数) | 産業医の数 |
50人以上3,000人以下 | 1人以上 |
3,000人を超える場合 | 2人以上 |
また、次の事業場においては、その事業場に所属する(専属する)者を産業医として選任しなければなりません。
専属の産業医を選任すべき事業場 |
① 常時1,000人以上の労働者を使用する事業場 |
② 深夜業等、一定の有害業務に、常時500人以上の労働者を従事させる事業場 |
定期健康診断結果の報告(労働安全衛生規則52条)
事業者は、事業場の規模にかかわらず、雇入れ時および常時使用する労働者に対して毎年1回、健康診断を実施しなければなりませんが、常時使用する労働者数が50人以上の事業場では、健康診断の実施義務だけでなく、定期健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署へ「遅滞なく」提出しなければなりません。定期健康診断結果報告書の提出を怠った場合の罰則規定はありませんが、報告を怠った場合、労働基準監督署から連絡や注意指導を受けることがありますので、定期健康診断報告書は速やかに作成、「遅滞なく」提出するよう心がける必要があります。
特殊健康診断(政令で定める有害な業務に従事する労働者または従事させたことのある労働者で、現に使用している労働者に対して行う医師による特別の項目についての健康診断)については、各規則において報告義務が規定されており、特殊健康診断(定期のものにかぎり、歯科医師による健康診断は除く)については事業規模にかかわりなく、特殊健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署長に「遅滞なく」提出しなければなりません。
ストレスチェックの実施(労働安全衛生法66条の10)
ストレスチェックは、労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気付きを促すとともに、職場環境の改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者がメンタル不調になることを未然に防止することを主な目的として実施されます(一次予防)。常時使用する労働者数が50人以上の事業場(※1)では、年に1回ストレスチェックの実施が義務付けられます。事業者は、ストレスチェック実施後、検査結果報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。ストレスチェック実施後の報告を行わなかった場合、50万円以下の罰金に処せられます。
(※1)ストレスチェックの実施義務や実施状況の報告義務がある「常時 50人以上の労働者を使用する事業者」に該当する否かを判断する際には、パートタイム労働者や、派遣先における派遣労働者も含めて事業場の労働者の数をカウントします。ただし、派遣労働者に対するストレスチェックおよび面接指導については、派遣元事業者が実施することとされています。
(1)ストレスチェックの対象となる労働者
ストレスチェックの対象者となる「常時使用する労働者」とは、次のいずれの要件をも満たす者をいいます。つまり、ストレスチェックの対象者と一般定期健康診断の対象者の要件は同一になります。
ストレスチェックの対象となる労働者の要件 |
① 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること |
② その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること |
➡参考リンク:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル
休養室の設置(労働安全衛生規則618条)
常時50人以上または常時女性30人以上の労働者を使用する事業場は、「労働者が臥床することのできる休養室または休養所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない」とされています。「休養室」の設置については、入口や通路から直視されないような仕切りを設ける、関係者以外の立入りを制限する等の配慮が求められます。「休憩室」と「休養室」は全く別の設備になりますが、「休養室」については、随時利用できる機能が確保されていれば、専用の設備である必要はないとされています。
社会保険加入の適用拡大への対応に関して
社会保険加入の適用拡大にともない、令和6年10月以降、従業員数(※1)が50人を超える(51人以上)場合には、短時間労働者(※2)の方々も、社会保険(健康保険/厚生年金保険)への加入が義務付けられることになります。短時間労働者を社会保険に加入させるにあたり、社会保険料の1人当たりの負担額の試算や、対象となる短時間労働者への周知を図るため、説明会などの実施が必要になります。
(※1)この場合の従業員数とは、厚生年金保険の被保険者数になります。
(※2)短時間労働者とは1週間の所定労働時間が同じ事業所で働く通常の労働者(≒正社員)の4分の3未満、1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満、またはその両方に該当する場合で、以下の要件をすべて満たす労働者のことをいいます。
① 週の所定労働時間が20時間以上あること |
② 2か月を超えて継続して雇用されることが見込まれること |
③ 賃金の月額(残業手当、通勤手当、ボーナス等は含めず)が88,000円以上であること |
④ 学生(夜間、通信、定時制を除く)でないこと |
⑤ 特定適用事業所(任意特定適用事業所を含む)または国・地方公共団体に属する事業所で勤務していること |
まとめ
以上、解説した事業主に課せられる義務については、その義務を果たしていない場合、罰則が科せられる可能性もあり、従業員数が実際に50人以上となったタイミングでしっかりと対応できるよう、事前に準備を進めていくことが大切です。とはいえ、事業拡大期、経営者様としては本来の業務に集中したいところ、まず何の準備から始めればよいかわからない点も多いかと思います。
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