管理監督者の該当性判断基準について

「管理監督者」とは、労働基準法上の概念になりまして、この管理監督者に対しては、労働基準法に定められた労働時間・休憩・休日の規定が適用されません。そのため、会社は管理監督者に対して、時間外手当を支払う必要はありません。ただし、管理監督者に該当するかどうかの判断を誤ってしまうと、高額な時間外手当の未払いが発生してしまい、重大な労使トラブルに発展しかねません。

「管理職なんだから、残業代は一切支払う必要がないのは当たり前じゃないですか?」と認識されている方もいらっしゃると思いますが、管理職=管理監督者という認識は誤った認識になります。未払い残業代などを発生させないためにも、この管理監督者について、正しく理解することが非常に重要です。今回は、この「管理監督者」に該当するのかどうかの判断基準について、詳しく解説していきたいと思います。

管理監督者とは

「管理監督者」「管理職」は非常に似た言葉になりますので、同じ意味であると混同されやすいですが、実際には区別して使い分ける必要があります。管理監督者と管理職の定義の違い、管理監督者に該当すると判断される基準、管理監督者に対する労働時間の規制の適用について、それぞれ詳しく見ていきましょう。

管理監督者と管理職の違い

「管理監督者」とは、労働基準法において、「管理・監督の地位にある者をいい、労働時間の決定やその他の労務管理について経営者と一体的な立場にあるもの」と明確に定義されています。この管理監督者に該当する場合は、労働基準法による労働時間の制限や休憩・休日に関する規定の適用を受けないため、労働時間等の制限を超えて働いても、会社は管理監督者に対して、時間外手当等を支払う必要はありません。

一方、「管理職」に対しては法律上の厳密な定義がないため、「課長以上の役職が管理職」、「部長以上の役職が管理職」など、管理職に該当するかどうかの判断は会社によって異なります。管理監督者に該当するかどうかは、役職の如何を問わず、実際の職務内容や責任の重さ、与えられる権限、待遇などから判断します。そのため、「課長」や「部長」といった役職に就く「管理職」であっても、労働基準法でいう「管理監督者」に該当しない場合もあります。

つまり、「管理職」であっても、「管理監督者」に該当しない場合、労働基準法による労働時間の制限や休憩・休日に関する規定の適用を受けることになるため、労働時間等の制限を超えて働いた場合、会社は時間外手当等を支払わなければなりません。「管理職には時間外手当等を支払わなくてもよい」というのは誤った認識になります。

【管理職と管理監督者の相違点のポイント】
① 管理職と管理監督者は、同じ意味であると混同されやすいが、実際には異なるものとして区別して使い分ける必要があります。
② 管理職に該当するかどうかは会社が決める処遇になりますが、管理監督者に該当するかどうかの判断基準は労働基準法で明確に定められています。

管理監督者に該当する場合は、労働基準法による労働時間の制限や休憩・休日に関する規定の適用は受けませんが、たとえ管理監督者であっても、深夜業(午後10時から午前5時までの時間帯の労働)を行った場合、会社は深夜の割増手当を支払う必要があります(労働基準法37条4項)。労働基準法は、深夜の時間帯の労働(深夜業)を通常の時間の労働と区別して規定を設けています。そのため、管理監督者が適用を受けないのは「労働時間、休憩及び休日に関する規定」であって、ここに深夜業は含まれません

➡また、管理監督者に対しても、年次有給休暇に関する規定は適用されるため、管理監督者にも年次有給休暇を付与する必要があります。 また、年10日以上の有給休暇が付与される管理監督者についても、一般の労働者と同様、年5日以上の有給休暇取得の義務化」の対象となることにも注意が必要です

管理監督者の該当性の基準について

「管理監督者」に対しては、労働基準法に定められた労働時間・休憩・休日の規定が適用されません。そのため、この管理監督者に該当するかどうかの判断基準は非常に厳しいものとなります。会社における役職名が「課長」、「部長」、「店長」、「マネージャー」、「スーパーバイザー」等、一般的に「管理職」と認められるものであったとしても、その方の働き方が、労働時間や休憩・休日に関する規制の枠を超えて活動することが求められるような重要な職務と責任を持っており、実際に労働時間等の規制になじまない働き方をしていると判断されなければ、管理監督者には該当しません。管理監督者と判断されるためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。

管理監督者の該当性基準(4要件)
①  労働時間・休憩・休日等に関する労働基準法の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務を行っていること
② 上記①にともなう重要な責任と権限を有していること
③ 実際の勤務態様も労働時間・休憩・休日等の規制にな馴染まないものであること
④ 重要な職務内容・責任・権限に見合うだけの賃金(報酬)が支払われていること

職務内容

➡管理監督者としての「職務内容」とは、経営者と一体的な立場で、重要な責任と権限を持って遂行しなければならない職務を指します。「経営者と一体的な立場」に関する明確な定義はありませんが、会社の経営方針や重要事項の決定に参画し、労務管理上の指揮監督権限を有していることなどが想定されます。

重要な責任と権限

➡管理監督者として「重要な責任と権限」があるといえるためには、経営者と一体的な立場で人事や労務管理に関する責任と権限を有している必要があります。具体的には、以下の事項を決定できる権限を有していることが必要になります。

① 採用
② 解雇
③ 人事考課
④ 待遇(賃金や労働条件等)
⑤ 労働時間の管理

勤務態様

➡管理監督者としての「勤務態様」については、時間管理や業務の遂行方法などについて、会社から具体的に拘束されない・指示を受けないという点が重要視されます。

① 遅刻・相対・欠勤についての取り扱いについて (例)遅刻や早退等により減給の制裁を受けたり、人事考課でマイナスの評価を受けたりしない
② 労働時間の決定に関して裁量がある (例)会社の就業規則等で定められている始業終業時刻に拘束されない
③ 部下と異なる勤務態様であること (例)会社からの指示に従い、労働時間の規制を受ける部下とは異なり、業務量に応じて、ある程度の労働時間調整を行う裁量が与えられている

賃金(報酬)等

➡管理監督者として、重要な職務内容・責任・権限に見合うだけの賃金(報酬)が支払われている必要がありますが、以下の点に注意する必要があります。

① 役職手当等の優遇措置 ・基本給に加えて役職手当等が別途支給されること等が必要になりますが、実際の労働時間数を考慮した場合に、基本給や役職手当等の優遇措置が、時間外や休日の規定が適用除外となることを考慮すると十分な金額とはいえない場合、管理監督者とは判断されない可能性があります。
② 時間単価 ・実際の労働時間から、時間単価に換算した賃金額が、一般社員(正社員・契約社員・アルバイト・パート等)の賃金額に満たない場合には、管理監督者と判断されない可能性が極めて高くなります。特に、時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となります。

管理監督者の労働時間の状況把握について

2019年施行の働き方改革関連法に伴い、労働基準法や労働安全衛生法が改正され、長時間労働者に対する面接指導を確実に実施するよう労働者の健康管理措置が強化されました。この面接指導を実施するためには、前提として労働時間の状況の把握が必ず必要となります。つまり、一般の労働者のみならず、管理監督者についても労働時間の状況を、客観的な方法その他の適切な方法(※)で把握することが会社に義務付けられています。「管理監督者は労働基準法による労働時間の制限や休憩・休日に関する規定の適用を受けないのだから、管理監督者に対して、会社は時間管理を行う必要はない。」といった認識は誤りです。

(※)客観的な方法その他適切な方法とは、タイムカードやICカードの記録、パソコンの使用時間の記録などによる確認方法をいいます。

➡このように、長時間労働による健康障害の防止や、深夜業に対する割増賃金の支払いは管理監督者に対しても必要になるため、管理監督者に対しても労働時間の把握や管理を行わなければなりません。ただし、このような労働時間管理を受けていること自体が、労働者の管理監督者性を否定するものではないことにも注意が必要です

高度プロフェッショナル制度について

職務の範囲が明確な、高度の専門的知識を必要とする業務に就き、かつ、一定の年収を有する労働者を対象として、労働基準法における労働時間、休憩・休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とするものとして、「高度プロフェッショナル制度」という制度があります。この制度は、深夜の割増賃金の規定まで適用除外とされる点が特徴で、高度プロフェッショナル制度の対象労働者と判断されるための要件は厳格に定められています。

この「高度プロフェッショナル制度」の対象者については、労働時間等の規定が、深夜の割増賃金の規定も含めて除外されることから、「労働時間」という概念がありません。しかし、労働者への負担が大きくなる恐れがある制度になりますので、会社(使用者)は、対象労働者に対し、一定の健康確保措置を講じることが義務付けられています。そのためにも、会社(使用者)は、対象労働者の「健康管理時間(在社時間+社外で勤務した時間)」を客観的・適切な方法で把握する必要があります。

固定残業代支払いの妥当性について

残業代相当部分を定額で支払う仕組みを「固定残業制度」といいます。管理監督者に該当するかどうかが争われた事例では、会社(使用者)が労働者に対して、管理職手当や役職手当といった名目で、定額手当を支給していたケースが多く見られますが、管理監督者には該当しないと判断された場合、固定残業代のような定額手当の支払いが、実際の残業代の支払いと認められるかどうかが争われます。

➡管理職手当や役職手当などに残業代相当額が含まれるとするならば、その旨、就業規則や賃金規定、労働契約などにより明確に定められている必要があり、かつ、残業代に相当する部分の額が、実際の労働時間から計算した額に満たない額であってはなりません。もし実際の労働時間から計算した額に満たない場合、差額を支給する必要があります。固定残業制度が認められるための要件は以下のとおりです。

【固定残業制度の要件】
① 残業代相当部分とそれ以外の賃金部分とが明確に区別され、明示されていること
② 固定残業代が、実際の労働時間に基づき、労働基準法の規定によって計算した額に満たない場合、その差額を当該賃金の支払期に追加して支払う制度があること
③ 労働契約や就業規則・賃金規定などで、上記①②の内容が明確に規定されていること

➡上記②を実際に運用するためにも、管理監督者についての労働時間の状況を、客観的な方法その他の適切な方法(※)で把握することが必要になります

管理職の勤務実態把握の重要性について

➡「管理職に対しては残業代や休日手当を支払わなくてもいい」と考える経営者の方がいらっしゃいますが、これは誤った認識になります。「管理職」ではあるものの、実際の勤務態様や賃金などの待遇、責任や権限の範囲をみると、「管理監督者」には該当しない、いわゆる「名ばかり管理職」とみなされる労働者に対しては、当然に時間外や休日の割増賃金の支払いが必要になります。

残業代や休日出勤の割増賃金の未払いを防ぐためにも、管理職の方々の勤務の実態や待遇などについてしっかりと把握しておく必要性があります。労働時間の管理や割増賃金の支払いに問題がないか、管理監督者としての該当性の判断についてご不明な点がございましたら、ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。

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