個別労働関係紛争とADR(裁判外紛争解決手続)について

労働にかかわるトラブルが発生したとき、ふと思い浮かべるのが裁判です。しかし、裁判はお金も時間もかかります。また、裁判の内容は一般に公開されるので、会社と従業員との間で、名誉や心を傷つけあう結果にもなりかねません。

そんな時こそADR(裁判外紛争解決手続)をご活用ください。ADR(裁判外紛争解決手続)とは、裁判によらないで、紛争当事者双方の話し合いに基づき、あっせん調停、あるいは仲裁などの手続きによって、迅速且つ廉価で適正に紛争を解決することを目的としています。

➡労働にかかわるトラブルが発生した際の解決手段として、非常に有効な手段であるADR(裁判外紛争解決手続)ですが、その制度について、まだまた一般の方々に浸透しているとは言えない状況です。今回はADR(裁判外紛争解決手続)を利用した、個別労働関係紛争の解決について、詳しくご紹介していきます。

個別労働関係紛争とは

個別労働関係紛争」とは、個々の労働者と事業主との間で発生した、労働条件やその他労働関係に関する様々なトラブルを言います。そのような労働トラブルが発生した際の解決までのながれは、以下のようなフローになります。今回はこのうち、あっせん申請等の労働ADRについて、詳しく解説していきます。

個別労働関係紛争の解決までのフロー

※この「紛争解決手続代理業務」は、厚生労働大臣が定める特別研修を修了し、紛争解決手続代理業務試験に合格し、その旨の付記(登録)を受けた社会保険労務士のみが行い得る業務になります。

「あっせん」とは

あっせんとは、事業主と労働者(または労働者であった者)との間で発生した、労働条件やその他労働関係に関する様々なトラブルについて、自主的な話し合いによって解決することが困難な場合に、紛争解決機関(ADR機関)が双方の間に入り、簡易・迅速・適切・円満に紛争を解決することを図る制度になります。

あっせん制度を利用するメリット

労使間における、労働条件やその他労働関係に関する様々なトラブルを解決する方法として、「裁判」という方法を選択する場合もありますが、裁判による解決は多額の費用や時間を費やし、その内容が一般公開されますので、紛争当事者の名誉や心を傷つけあう結果にもなり、労働トラブルの解決を目指す場合、必ずしも最良の策とは言えない場合があります。

➡では、「裁判」に訴えるのではなく、労働紛争を解決する手段として「あっせん」を活用する場合、どのようなメリットがあるのでしょうか?

■あっせんを利用するメリット■
① 時間がかからない ➡裁判の場合、結審までに比較的長い期間を要しますが、あっせんの場合、期日は1回になりますので、結論が出るまでに時間がかかりません。
② 裁判に比べて費用がかからない ➡裁判に訴える場合、それなりの費用を要しますが、行政型ADR無料で利用が可能です。また、民間型ADRを利用した場合や、特定社会保険労務士等にあっせんの代理人を依頼した場合でも、他の紛争解決方法と比較すればコストを抑えることができます。
③ 非公開で行われる ➡裁判は公開が原則ですが、あっせんは「非公開」なので、個人情報や話し合いの内容が外部に知れることはなく、プライバシーは保護されます。
④ 紛争の当事者双方が対面することなく進められる ➡あっせんの当日は、会社側と労働者はそれぞれ別々の部屋で待機し、あっせん委員が間に入り、双方の主張の要点確認、双方への働きかけ、あっせん案の提示などを行ってくれるため、紛争当事者の相手方と顔を合わせずに済みます。
⑤ 不利益取扱いの禁止 ➡労働者があっせんの申請をしたことを理由として、会社がその労働者を解雇したり、その他不利益な取扱いをすることが法律上禁止されています。

あっせんの対象となる紛争

・あっせんの対象となる範囲は、主に以下のような労働条件、その他労働関係に関する事項についての個別労働紛争になります。

■あっせんの対象となる主な個別労働紛争■
① 解雇、雇止め、配置転換、労働条件(賃金・休日・労働時間等)の不利益変更などの労働条件に関する紛争
② いじめ・嫌がらせ、パワーハラスメント、セクシャルハラスメントなどの職場環境に関する紛争
③ 退職に伴う研修費用の返還、営業車など会社所有物の破損についての損害賠償をめぐる紛争
④ 会社分割による労働契約の承継、同業他社への就業禁止など労働契約に関する紛争

なお、会社(事業主)から労働者に対して、職場規律の保持を求めたり、金銭の返還を求めたりする事案も、個別労働関係紛争のあっせんの対象になります。つまり、会社からもあっせんの申請を行うことが可能です。

あっせんの対象とならない紛争

・以下のような紛争はあっせんの対象とはなりません。

■あっせんの対象とならない主な紛争■
① 労働組合と会社との間の紛争
② 労働者と労働者の間の紛争
③ 裁判で係争中である、または確定判決が出されている紛争や他の制度において取り扱われている紛争
④ 労働組合と事業主との間で問題として取り上げられており、両者の間で自主的な解決を図るべく話し合いが進められている紛争  
⑤募集・採用に関する紛争
⑥ 男女雇用機会均等法に基づく紛争解決援助の対象となる紛争
⑦ パートタイム・有期雇用労働法に基づく紛争解決援助の対象となる紛争
⑧ 育児・介護休業法に基づく紛争解決援助の対象となる紛争
⑨ 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の紛争解決援助の対象となる紛争
⑩ 障害者雇用促進法の紛争解決援助の対象となる紛争
⑪ 労働者派遣法の紛争解決援助の対象となる紛争

他の法律において紛争解決援助制度が設けられている紛争につきましてはあっせんの対象とはなりません。⑥~⑨の紛争は都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)の紛争は都道府県労働局 需給調整事業担当部の紛争は都道府県労働局 職業安定部の各会議による「調停による解決」になります。
➡紛争の内容が、上記⑥~⑪に該当する場合で、ADRによる解決を検討される場合にも、調停手続きについて、その代理も含めしっかりとサポートさせていただきます。

個別労働関係紛争におけるADR機関

・個別労働関係紛争に係るADR(裁判外紛争解決手続 )を行う機関には次の4つの機関があります。

都道府県労働局

「都道府県労働局」は、各都道府県に設置されている厚生労働省の地方機関です。相談の内容に応じて、都道府県労働局長の名で助言や指導が行われ、労働局内に置かれている「紛争調整委員会」によるあっせん等が行われます。

労働委員会

労働委員会とは、労働組合法に基づき設置されている独立行政委員会で、国に設置される中央労働委員会と都道府県ごとに設置される都道府県労働委員会があります。従来は労働組合と会社との紛争解決を図ることを目的とする機関でしたが、平成13年に制定された個別労働関係紛争解決促進法により、個別労働関係紛争の「あっせん」などを取り扱うことができるようになりました。

社労士会労働紛争解決センター

社会保険労務士会も「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」に基づき、法務大臣の認証を得るとともに、厚生労働大臣の指定を受け、認証ADR機関「社労士会労働紛争解決センター」を運営しております。この社労士会労働紛争解決センターでは、特定社会保険労務士が紛争当事者の言い分を聴き、「あっせん」手続きにより個別労働関係紛争の解決を図ります。特定社会保険労務士は、紛争の目的の価額(請求額)が120万円以下の事件を取り扱うことができます。

➡参考リンク:社労士会労働紛争解決センター

弁護士会紛争解決センター

弁護士会も裁判外紛争解決(ADR)実施機関として「紛争解決センター」を設置しており、弁護士があっせん人・仲裁人となり、紛争当事者同士の話し合いを支援し、当事者の合意や仲裁判断により紛争を解決するための手続きを行っています。なお、紛争の目的は個別労働関係紛争に限定されません

➡参考リンク:日本弁護士連合会 紛争解決センター(ADR)

行政型ADRにおける2種類のあっせん

個別労働関係紛争におけるADR(裁判外紛争解決手続)には民間型ADR行政型ADRがあります。先に紹介した「社労士会労働紛争解決センター」や「弁護士会紛争解決センター」は民間型ADR機関になります。一方、行政型ADR機関としては、各都道府県労働局に設置されている「紛争調整委員会」「都道府県労働委員会」とがあります。

紛争調整委員会によるあっせん

都道府県労働局 紛争調整委員会によるあっせんの主な特徴は以下のとおりになります。

■紛争調整委員会によるあっせん■
① 根拠法令 個別労働紛争解決促進法
② あっせんの体制 紛争調整委員1名と事務局担当者が1名
③ あっせんに応じるか否かの返答期限 あり(概ね10日以内)
④ 相手方が手続に参加しない場合の措置等 あっせんは不調となり終了
⑤ 話し合いの形式 あっせんの場での話し合いは比較的自由な形で行われる
⑥ あっせん手続利用に要する費用 無料
⑦ 消滅時効中断効の有無 あり
➡あっせんが打ち切られた場合、あっせんの目的となった請求(当該あっせんの手続において、あっせんの対象とされた具体的な損害賠償請求等)について、あっせん打切りの通知を受けた日から30日以内に訴訟が提起された場合、あっせん申請時に提起があったものとみなされます。

労働委員会によるあっせん

都道府県 労働委員会によるあっせんの主な特徴は以下のとおりになります(東京都・兵庫県・福岡県を除く)。

■労働委員会によるあっせん■
① 根拠法令 個別労働紛争解決促進法(第20条)
② あっせんの体制 三者構成(公益委員、労働者委員、使用者委員)のあっせん委員3名(※)と事務局の担当者5名ほど
③ あっせんに応じるか否かの返答期限 なし
④ 相手方が手続に参加しない場合の措置等 あっせんは不調となり終了
⑤ 話し合いの形式 あっせんの審議では要式性のある話し合いが行われる
⑥ あっせん手続利用に要する費用 無料
⑦ 消滅時効中断効の有無 なし
⑧ その他 ➡労働委員会によるあっせんの場合、あっせんの期日に先立って、事務局の担当者が相手方を訪問し、調査が行われたり、あっせん申請人の主張を通知したり、あっせん制度の趣旨の説明などが行われる場合がある。

(※)3名のあっせん委員のうち、使用者委員は都道府県内企業の代表取締役など経営に携わる方、労働者委員は労働組合の関係者が選任されていることが多いようです。また、公益委員については、弁護士などが選任されることが多いですが、労働委員会は都道府県の組織であるため、県内の公営事業の代表者や理事長などが公益委員になることもあります。

➡労働委員会でのあっせんの場合、選任されるあっせん委員によって、紛争当事者間の調整や話し合いの進め方に違いが生じるといったデメリットもあるようです。

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最後に

代表的な行政型ADR機関である「紛争調整委員会」「労働委員会」によるあっせんですが、大まかなフローは同じでも、相違点も多くあります。労働基準監督署や労働局の総合労働相談コーナーへ相談した場合、都道府県労働局 紛争調整委員会へのあっせんを提案されることになると思いますが、いずれのあっせん制度を利用するかは慎重に検討する必要があると思います。

➡当事務所では、初回相談の際に、可能な限り具体的な内容を伺い、事実の確認や争点の整理をさせていただき、解決手段として選択しうる手続きを一緒に考えさせていただきます。初回相談は無料(1時間)になりますので、少しでもご不安な点があれば、ぜひ当事務所までご相談ください。

個別労働関係紛争解決手続に関するご相談につきましては、事業者様、労働者様ともに「事前申し込み」が必要になります。お電話、もしくは下記のお問い合わせフォームのいずれかからご相談の申し込みをお願いいたします。

【ご注意事項】個別労働関係紛争解決手続代理業務のご依頼に関しまして、あらかじめ以下の点にご了承いただきますようお願いいたします

労働組合と使用者の紛争や、従業員同士の紛争につきましては代理業務を受任することはできません。また、当事務所と顧問契約(Sプラン/Aプラン)を締結していただいている事業者(過去にご契約いただいていた場合も含みます。)、スポット業務をご依頼いただいている事業者の従業員様からの依頼につきましては、利益相反行為となるため、お受けすることができかねます。

当事務所が紛争の相手方から先に相談を受けていた場合、業務受任をお断りする場合があります。あらかじめご了承いただきますようお願いいたします。

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