個別労働関係紛争のあっせん手続きのながれ
個別労働関係紛争におけるADR(裁判外紛争解決手続)には民間型ADRと行政型ADRがあります。代表的な民間型ADR機関としては「社労士会労働紛争解決センター」や「弁護士会紛争解決センター」があります。一方、行政型ADR機関としては、各都道府県労働局に設置されている「紛争調整委員会」と、各都道府県に設置された「労働委員会」とがあります。
➡行政型ADR機関である「紛争調整委員会」と「労働委員会」ですが、それぞれのあっせん手続きには多少の相違点があります。今回は、行政型ADR機関の行う「あっせん手続き」のながれについて、簡単にご紹介していきます。
※東京都・兵庫県・福岡県の各労働委員会では、個別労働紛争のあっせんを行っていません。また、神奈川県も実際には個別労働関係紛争のあっせんに関して、原則として労政主管部局が労働委員会に先立って行います。
目次
紛争調整委員会によるあっせん
都道府県労働局 紛争調整委員会によるあっせん手続きに関して、その主な特徴と、申請後のおおまかなながれについて見ていきましょう。
紛争調整委員会によるあっせんの特徴
・都道府県労働局 紛争調整委員会によるあっせんの主な特徴は以下のとおりになります。
■紛争調整委員会によるあっせんの特徴■ | |
① 根拠法令 | 個別労働紛争解決促進法 |
② あっせんの体制 | 紛争調整委員1名と事務局担当者が1名 |
③ あっせんに応じるか否かの返答期限 | あり(概ね10日以内) |
④ 相手方が手続に参加しない場合の措置等 | あっせんは不調となり終了 |
⑤ 話し合いの形式 | あっせんの場での話し合いは比較的自由な形で行われる |
⑥ あっせん手続利用に要する費用 | 無料 |
⑦ 消滅時効中断効の有無 | あり ➡あっせんが打ち切られた場合、あっせんの目的となった請求(当該あっせんの手続において、あっせんの対象とされた具体的な損害賠償請求等)について、あっせん打切りの通知を受けた日から30日以内に訴訟が提起された場合、あっせん申請時に提起があったものとみなされます。 |
紛争調整委員会によるあっせん手続きのながれ
・都道府県労働局 紛争調整委員会によるあっせん手続きは、大まかに以下のようなフローで進みます。
(※1)必要に応じて申請人から事情聴取などを行い、紛争に関する事実関係を明確にしたうえで、都道府県労働局長が紛争調整委員会にあっせんを委任するかどうかを決定することになります。
(※2)あっせん開始の通知を受けた一方の当事者が、あっせんの手続に参加しない意思表示を行ったときは、あっせんが実施されず、打切りになります。
➡紛争当事者間であっせん案に合意した場合には、受諾されたあっせん案は民法上の和解契約の効力を持ちます。
メリット・デメリット(紛争調整委員会)
都道府県労働局 紛争調整委員会によるあっせん手続のメリットやデメリットについては以下のような点が挙げられます。
■紛争調整委員会によるあっせんのメリット・デメリット■ | |
① メリット | (a)紛争調整委員は、弁護士や大学教授等の労働問題の専門家の委員が担当するため、選任される紛争調整委員によって、紛争当事者間の調整や話し合いの進め方に大きな違いが生じるといったことは少なく、公正中立性が保たれる。 (b)あっせんに応じるか否かの返答期限が設定されるため、あっせんの開始(もしくは打切りの決定)まで時間がかからない。 |
② デメリット | (a)相手方に対しては、あっせんの開始通知が郵送で通知されるのみで、相手方に直接赴いたうえで、あっせん開始の通知が行われることはない。 (b)あっせんに先立って、労働者及び事業主双方に対する事前調査等は行われない。 |
労働委員会によるあっせん
都道府県 労働委員会によるあっせん手続きに関して、その主な特徴と、申請後のおおまかなながれについて見ていきましょう。
労働委員会によるあっせんの特徴
・都道府県 労働委員会によるあっせんの主な特徴は以下のとおりになります。
(※東京都・兵庫県・福岡県の各労働委員会では、個別労働紛争のあっせんを行っていません。)
■労働委員会によるあっせんの特徴■ | |
① 根拠法令 | 個別労働紛争解決促進法(第20条) |
② あっせんの体制 | 三者構成(公益委員、労働者委員、使用者委員)のあっせん委員3名(※)と事務局の担当者5名ほど |
③ あっせんに応じるか否かの返答期限 | なし |
④ 相手方が手続に参加しない場合の措置等 | あっせんは不調となり終了 |
⑤ 話し合いの形式 | あっせんの審議では要式性のある話し合いが行われる |
⑥ あっせん手続利用に要する費用 | 無料 |
⑦ 消滅時効中断効の有無 | なし |
⑧ その他 | ➡労働委員会によるあっせんの場合、あっせんの期日に先立って、事務局の担当者が相手方を訪問し、調査が行われたり、あっせん申請人の主張を通知したり、あっせん制度の趣旨の説明などが行われる場合がある。 |
労働委員会によるあっせん手続きのながれ
・都道府県労働局 労働委員会によるあっせん手続きは、大まかに以下のようなフローで進みます。
(※東京都・兵庫県・福岡県の各労働委員会では、個別労働紛争のあっせんを行っていません。)
※あっせん申請できるのは、事業所(紛争が実際に起きている事業所)で働く(または働いていた)労働者およびその事業主になります。
※あっせん申請書は、必要事項を記入のうえ、その事業所が所在する都道府県労働委員会事務局に提出することになります。
➡紛争当事者間であっせん案に合意した場合には、受諾されたあっせん案は民法上の和解契約の効力を持ちます。
メリット・デメリット(労働委員会)
都道府県 労働委員会によるあっせん手続のメリットやデメリットについては以下のような点が挙げられます。
■紛争調整委員会によるあっせんのメリット・デメリット■ | |
① メリット | (a)あっせん開始に際しては郵送ではなく、相手方に直接赴いたうえで、あっせん開始の通知が行われる。 (b)あっせんの申請後、労働者及び事業主双方から紛争の経過と双方の主張の要点を確認するため、事務局職員による事前調査等が行われる。 |
② デメリット | (a)あっせんに応じるか否かの返答期限が設定されないため、場合によってはあっせんの開始(もしくは打切りの決定)まで時間がかかることがある。 (b)あっせん委員3名のうち、公益委員については、弁護士等の労働問題の専門家だけではなく、県内の公営事業の代表者や理事長などが選任される場合もあり、選任される公益委員によっては、紛争当事者間の調整や話し合いの進め方に違いが生じることがあり、公正中立性が保たれない可能性がある。 |
まとめ
代表的な行政型ADR機関である「紛争調整委員会」と「労働委員会」によるあっせん手続きについて、それぞれのあっせん手続きのながれ、相違点、メリット・デメリットについて見てまいりましたが、いずれのあっせん制度を利用するかは慎重に検討する必要があると思います。
また、都道府県労働局 総合労働相談コーナーや、都道府県 労働委員会事務局、労働センターに相談すれば、あっせん申請書の記入方法など丁寧に教えてくれますので、あっせん申請については労働者、事業主ご自身で行うことも可能です。ただし、申請者の主張が認められ、求める内容が十分に実現されるようにあっせんを進めるためには、申請書の提出だけでは十分ではなく、陳述書や紛争内容の説明に役立つ書類(証拠)等を用意する必要があります。
➡当事務所では、初回相談の際に、可能な限り具体的な内容を伺い、事実の確認や争点の整理をさせていただき、解決手段として選択しうる手続きを一緒に考えさせていただきます。初回相談は無料(1時間)になりますので、少しでもご不安な点があれば、ぜひ当事務所までご相談ください。
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