介護職員等処遇改善加算~キャリアパス要件(Ⅰ~Ⅲ)について~
介護職員等処遇改善加算(以下「処遇改善加算」といいます。)とは、介護職員が安定した労働条件のもと働き続けることができるよう、賃金や職場環境の改善を図ることを目的とした制度になります。この処遇改善加算(新加算Ⅰ~Ⅳ)を算定するには、加算に応じた賃金改善を実施するとともに、① キャリアパス要件、② 月額賃金改善要件、③ 職場環境等要件という3つの要件を満たす必要があります。
➡これら要件のうち「キャリパス要件」に関しては、令和6年度中(令和7年3月末まで)は、「年度内に対応する旨の誓約」を行うことでも要件を満たすとされていましたが、いよいよ令和7年4月からは、実際に制度設計を行い、キャリアパス要件Ⅰ~Ⅲに関しては、その根拠規定を就業規則に規定し、すべての介護職員に周知しなければなりません。
お客様より、「算定している処遇改善加算の区分に応じたキャリアパス要件を満たすため、どのような制度を整備し、就業規則にどのように規定すれば良いのか分からない。」とご相談をいただくことがあります。キャリアパス要件とは、介護職員がキャリアアップできるような賃金体系や環境を整えるための要件になりますが、今回は令和6年度介護報酬改定後の新加算Ⅰ~Ⅲを算定するうえで必須となる「キャリアパス要件Ⅰ~Ⅲ」について、その概要と具体的な制度のつくり方について詳しく解説します。
目次
キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系)
キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系)とは、介護職員について、① 職位、職責、職務内容等に応じた任用等の要件を定め、② それらに応じた賃金体系を整備し、かつ、③ その根拠規程を就業規則等の書面で整備し、すべての介護職員に周知する必要があります。
キャリアパス要件Ⅰの定義
【キャリアパス要件Ⅰ】
次のイ、ロ及びハを満たすこと。
イ)介護職員の任用の際における職位、職責または職務内容等に応じた任用等の要件(介護職員の賃金に関するものを含む。)を定めていること。
ロ)イに掲げる職位、職責または職務内容に応じた賃金体系(一時金等の臨時的に支払われるものを除く。)について定めていること。
ハ)イおよびロの内容について、就業規則等の明確な根拠規程を書面で整備し、全ての介護職員に周知していること。
イ)では、介護職員を役割やキャリアによって段階的に区分し(職位)、その職位に応じた責任の範囲(職責)と、具体的な仕事の内容(職務内容)について明確に定める必要があります。
ロ)については、職位ごとの賃金テーブルを作成したり、支給する手当を設定する等、賃金体系を明確にする必要があります。
ハ)では、職位、職責、職務内容、賃金体系を就業規則等に規定し、事業所の介護職員すべてに周知する必要があります。
用語の定義(解釈例)
➡キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系)を満たすための制度設計を行うには、正しい用語の解釈が非常に重要になります。それぞれの用語の意味や、要件を満たすための具体例については、次の表の通りです。
職位・職責・職務内容の具体例
新人介護職員、中級・熟練の介護職員、リーダーの4段階の職位を設定した場合の職責や職務内容、任用要件の具体例を挙げてみます。ちなみに、介護サービスの提供を行わない管理職は介護職員には含まれないため、今回は職位に含めておりませんが、介護事業所として、管理職も含めたキャリア形成を設計するのであれば、管理職やマネージャー職を職位に含めても問題ありません。
※上記はあくまで一例になります。職位・職責と、それらに応じた職務内容や任用要件は、それぞれの介護事業所に即したものとする必要があります。
職員数も10人前後で、新規立ち上げ後間もない介護事業所などは、経営者や立ち上げ時のスタッフが管理者などの職務に就き、一般の職員は、介護サービスのスキルアップを求めていくことが多いと思います。キャリアパス要件Ⅰで求められるのは、「介護職員の職位等」になりますので、職位としての管理職の設定は必須ではありません。キャリアパスは、事業所の介護職員の個性、キャリア志向に沿って設計する必要がありますが、小規模の介護事業所では、介護の仕事に対する思いが強く、「施設利用者のために働きたい。」、「より多くの介護技術を習得して介護のプロフェッショナルを目指したい。」と考える職員の方が多い傾向にあると思います。
そういった小規模の介護事業所では、管理者を目指すキャリアパスではなく、リーダーに相当する「経験・技能のある介護職員」を目指すキャリアパスを提示する方が、職員のモチベーション維持や、職場定着にもつながると考えます。
職位・職責に応じた賃金体系の整備
キャリアパス要件Ⅰのうち、「賃金体系の整備」とは、① 職位・職責・職務内容ごとの賃金テーブル(等級)を定めてそれに応じた基本給を定める方法や、② 役職、資格、経験又は職務内容に応じた手当を定める方法などにより、それぞれの職位・職責・職務内容に応じた「賃金支払いの組み合わせ」を明確にして、それらを就業規則等に定め、全ての職員に周知することをいいます。注意点は次の表の通りです。
キャリアパス要件Ⅰにおける賃金体系の整備の注意点 |
① ここでいう「賃金体系を定める」とは、賃金体系を明確化することを求めているのであり、ベースアップをすることまでは求めていないこと。 |
② 手当支給については、「一時金等の臨時に支払われるものを除く」とされること。つまり、就業規則等に記載がなく、使用者の裁量で臨時に支払われる手当は、キャリアパス要件Ⅰの「賃金体系の整備」でいうところの、「役職、資格、経験または職務内容に応じた手当」とは見なされないこと。 |
職員数10人前後で、新規立ち上げ後間もない介護事業所様より、「職員の職務レベルが個々人によってかなり相違があり、人事制度、特に賃金等級制度を導入する予定がないのため、職位・職責・職務内容ごとの賃金テーブル(等級)を定め、それに応じた基本給を職員に提示することが難しい。」とご相談をいただく機会がありました。
そのような場合、月額基本給や時間給に関しては、個々の雇用契約で定める旨就業規則に記載し、役職、資格、経験又は職務内容に応じた諸手当を就業規則に定めることで、職位に応じた賃金体系(賃金支払いの組み合わせ)を、職員すべてに周知することができれば、「賃金体系の整備」の要件は満たされることになります。ただし、後に解説する「キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組み)」との整合性を考慮する必要があります。
キャリアパス要件Ⅱ
(資質向上の取組と能力評価)
キャリアパス要件Ⅱ(資質向上の取組と能力評価)は、介護職員が、キャリアパス要件Ⅰの「職責」を果たすために必要な職務遂行能力を備えるために行うものになります。キャリアパス要件Ⅱの定義は次の通りになります。
キャリアパス要件Ⅱの定義
【キャリアパス要件Ⅱ】
次のイ及びロを満たすこと。
イ)介護職員の職務内容等を踏まえ、介護職員と意見を交換しながら、資質向上の目標及びa)またはb)に掲げる事項に関する具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の実施又は研修の機会を確保していること。
a)資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供又は技術指導等(OJT、OFF-JT 等)を実施するとともに、介護職員の能力評価を行うこと。
b)資格取得のための支援(研修受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、費用(交通費、受講料等)の援助等)を実施すること。
ロ)イ)について、全ての介護職員に周知していること。
キャリアパス要件Ⅱのイ)の具体例
イ)a)(研修・能力評価の実施)
趣旨 | 介護職員の技術、能力向上を図るための目標を設定し、目標達成に向けた具体的な計画を策定すること。 |
目標設定 | 介護職員の技術、能力向上に向けた今年度の目標を具体的に設定する。 具体例:「外部機関から研修講師を招聘し、〇〇スキル向上のための研修を令和7年度中に5回実施する。」 |
計画策定 | 目標を達成するための研修計画を定め、これを実施するとともに、職員の能力評価を行う。具体的な計画内容は、「介護職員処遇改善計画書」に記載する。 |
イ)b)(資格取得の支援)
趣旨 | 介護職員の資格取得に向けた今年度中の目標を設定し、具体的な計画を策定すること。 |
目標設定 | 資格取得に向けた今年度の目標を設定する。 具体例:「介護職員に占める介護福祉士の割合を〇%にする。」 |
計画策定 | 目標を達成するための支援策(資格取得費用の援助、試験休暇の付与等)を計画し、これを実施する。具体的な取組内容は「介護職員処遇改善計画書」の該当欄に記載する。 |
キャリアパス要件Ⅱについて、イ)a)(研修・能力評価の実施)、イ)b)(資格取得の支援)のいずれを採用するにしても、「介護福祉士の資格取得の推進」を念頭に計画を策定することをおすすめいたします。というのも、この後解説する「キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組み)」を、「資格等に応じて昇給する仕組み」を整備することで満たそうとする場合、介護福祉士の資格取得や保有がその対象となるからです。
キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組み)
介護職員等処遇改善加算(新加算)の区分Ⅰ~Ⅲの算定を行うには、キャリアパス要件Ⅲを満たす必要があります。キャリアパス要件Ⅲでは、介護職員について、経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み、または一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを整備し、根拠規程を就業規則等に明記し、全ての介護職員に周知する必要があります。
キャリアパス要件Ⅲの定義
【キャリアパス要件Ⅲ】
次のイ及びロを満たすこと。
イ)介護職員について、経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み、または一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けていること。具体的には、次のa)からc)までのいずれかに該当する仕組みであること。
a)経験に応じて昇給する仕組み
「勤続年数」や「経験年数」などに応じて昇給する仕組みであること。
b)資格等に応じて昇給する仕組み
「介護福祉士」の資格の取得や、実務者研修等の修了状況に応じて昇給する仕組みであること。ただし、介護福祉士資格を有して当該事業所や法人で就業する者についても昇給が図られる仕組みであることを要する。
c)一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み
「実技試験」や「人事評価」などの結果に基づき昇給する仕組みであること。ただし、客観的な評価基準や昇給条件が明文化されていることを要する。
ロ)イ)の内容について、就業規則等の明確な根拠規程を書面で整備し、全ての介護職員に周知していること。
キャリアパス要件Ⅱとの関連付け
キャリアパス要件Ⅱ(資質向上の取組と能力評価)の部分でも述べた通り、キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組み)を検討する際にも、やはり「介護福祉士の資格取得の推進」を念頭に制度設計することをおすすめします。介護職として従事している介護福祉士は、介護報酬上も介護の専門職としての評価がなされおり、介護福祉士の割合を増やすことで、サービス提供体制強化加算等を受けられるようにもなります。
キャリアパス要件Ⅲを、「資格に応じて昇給する仕組み」を導入することで満たそうとする場合、介護福祉士の資格取得がその対象になりますので、キャリアパス要件Ⅱについても、介護福祉士の資格取得の推進を念頭に「研修や能力評価の実施」、または「資格取得の支援の実施」を行うことをおすすめします。
介護職員のためのキャリアパス
介護職員等処遇改善加算を算定するには、① キャリアパス要件、② 月額賃金改善要件、③ 職場環境等要件について取り組む必要がありますが、まずはキャリアパス要件について制度設計をし、就業規則等へ規定し、職員のみなさまに周知するところから始まります。キャリアパス要件については、いずれの要件も細かく具体的に指定はされていますが、事業所の介護職員の個性やキャリア志向に沿ったものなければなりません。職員の個性や意向に沿ったものでないと、モチベーションや職場定着率の低下にも繋がりかねません。
キャリパス要件の検討では、細かい要件の読み込みに意識が向かいがちですが、現場の介護職員のみなさまの個性を把握し、キャリア志向をしっかりと汲み取ることが最も重要になると考えます。処遇改善加算を算定するためだけではなく、介護事業所として明確なキャリアパスを示すことで、職員のみなさまが働きやすい職場環境が整備され、結果として、質の高い介護サービスを提供できる体制づくりに繋がると考えます。
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