パートタイム・有期雇用労働法について
パートタイムやアルバイト、契約社員などの非正規雇用で働く労働者は、賃金や手当、福利厚生などの待遇が正社員と違うのは当然だと思っていませんか。実際は同じ会社内で、正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間で基本給や賞与・手当などあらゆる待遇について「不合理な待遇格差」を設けることは禁止されています。
➡パートタイム・有期雇用労働法は、雇用形態を理由とした「不合理な待遇格差」を是正することを目的とした法律で、2021年4月からは中小企業にも適用されています。今回はその具体的内容について、会社側、労働者側の双方が知っておくべきポイントについてご紹介いたします。
目次
パートタイム・有期雇用労働法とは
パートタイム労働者や有期雇用労働者、派遣労働者などの非正規雇用労働者は、被雇用者全体の約4割弱を占めています。非正規雇用労働者においては、同一の企業で働く正社員と、職務内容(※1)や職務内容・配置の変更の範囲(※2)が同じであっても、雇用形態が違うだけで「基本給が少ない」、「手当が支給されない」など、待遇差が生じている場合があります。
(※1)職務内容とは、「業務の内容」と「責任の程度」を指します。
(※2)職務内容・配置の変更の範囲とは、「転勤」、「人事異動」、昇進などの有無や範囲を指します。
概要
パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)は、上記のような正社員と非正規雇用労働者の間の「不合理」な待遇差をなくし、その有する能力を有効に発揮し、どのような雇用形態を選択しても、労働者が納得して働き続けることができるようにすることを目的に、2020年4月に施行され、2021年4月1日からは中小企業への適用も開始されています。
対象労働者
(1)パートタイム・有期雇用労働法における同一労働・同一賃金の取組対象となる労働者
・以下のパートタイム労働者と有期雇用労働者が対象となります。
(a)パートタイム労働者 | ➡同一の事業主に雇用される正社員と比較して、1週間の所定労働時間が短い労働者をいいます。 |
(b)有期雇用労働者 | ➡事業主と、半年や1年などの期間を定めた労働契約を締結している労働者をいいます。 |
※「パートタイマー」「アルバイト」「嘱託社員」「契約社員」「臨時社員」「準社員」など、名称にかかわらず、上記に当てはまる労働者であれば、パートタイム・有期雇用労働法の対象となります。また、派遣労働者は、労働者派遣法の対象となり、同じように正社員との間の不合理な待遇差が禁止されます。
パートタイム・有期雇用労働法の
3つのポイント
パートタイム・有期雇用労働法では2018年6月末の法改正により、以下の規定が整備され、2020年4月1日に施行されました。また、2021年4月より、中小企業への適用も開始されています。
■パートタイム・有期雇用労働法の3つのポイント■ |
(1)雇用形態による不合理な待遇差の禁止 |
(2)労働者に対する待遇の格差に関する説明義務の強化 |
(3)行政による裁判外紛争解決手続制度(行政ADR)の整備 |
☞以下、それぞれ3つのポイントについて詳しく見ていきましょう。
雇用形態による不合理な待遇差の禁止
同一企業内において、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間のあらゆる待遇について、「不合理」な待遇差を設けることが禁止されます。ここで比較対象とされるのは、「同一企業内」の正社員(※)とパートタイム労働者・有期雇用労働者になります。同じ業種や職種であっても、他の企業の労働者と比較するものではありません。
※正社員とは、いわゆる「正規型」の労働者と、事業主との間で、期間の定めのない労働契約を締結している「フルタイム」労働者(無期雇用フルタイム労働者)が該当します。
(1)待遇格差が禁止される項目
・不合理な待遇格差として禁止される項目は、賃金だけでなく、キャリア形成や能力開発の機会など、下表に挙げらるようなあらゆる待遇を含みます。
■待遇格差が禁止される項目■ |
(a)基本給(賃金決定のルールを含む) |
(b)昇給 |
(c)賞与(ボーナス) |
(d)各種手当(役職手当、地域手当、通勤手当等) |
(e)福利厚生施設の利用(食堂、休憩室、更衣室等) |
(f)慶弔休暇の有無 |
(g)健康診断 |
(h)病気・休職時の取扱い |
(i)休暇の付与の取扱い |
(j)教育訓練・キャリア開発 |
➡上記に該当しないものであっても、支給される手当や待遇の性質や目的から、合理性の判断が必要となります。例えば、通勤手当に関しては、雇用形態を問わず、会社への通勤しているすべての労働者に支給が必要であると判断されます。また、どのような待遇差が不合理なものに当たるかの原則となる考え方と具体例に関しては、厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」において、より詳しく確認できます。
パートタイム・有期雇用労働法で規定される「均衡待遇規定(第8条)」と「均等待遇規定(第9条)」について、もう少し詳しく見てみると、以下のような内容になります。
■パートタイム・有期雇用労働法第8条■ | ■パートタイム・有期雇用労働法第9条■ |
☞均衡待遇規定(不合理な待遇差の禁止) | ☞均等待遇規定(差別的取扱いの禁止) |
・個々の待遇(※1)ごとに(a)職務内容(※2)、(b)職務内容・配置の変更の範囲(※3)、(c)その他の事情(※4)のうち、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して不合理な待遇差を設けることを禁止するもの | ・(a)職務内容、(b)職務内容・配置の変更の範囲が、正社員と同じパートタイム労働者・有期雇用労働者(※5)については、パートタイム労働者・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱いを禁止するもの |
※1 基本給、賞与、役職手当、福利厚生、教育訓練等
※2 職務内容とは、業務の内容及び責任の程度をいいます。
※3 転勤、人事異動、昇進など、人材活用の仕組みや運用等
※4 職務の成果、能力、経験、事業主と労働組合との交渉の経緯等
※5 通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者といいます。
つまり、事業主は、「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、全ての賃金、教育訓練、福利厚生施設、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等の全ての待遇(労働時間及び労働契約の期間は除きます。)について、差別的取扱いをしてはいけません(第9条)。
☞また、(a)職務内容、(b)職務内容・配置の変更の範囲について、「通常の労働者」と「パートタイム労働者・有期雇用労働者」との間で相違がある場合であっても、その相違に応じて、バランスの取れた待遇とする必要があります(第8条)。
待遇の格差に関する説明義務の強化
パートタイム・有期雇用労働者は、正社員との待遇差の内容や理由について、事業主に説明を求めることができるようになりました。事業主は、パートタイム・有期雇用労働者から、正社員との間の待遇格差について、「待遇を決定する際に考慮した事柄」や「正社員との間で待遇格差が設けられている理由」等の説明を求められた場合、説明する義務が生じます。この際、説明を求めた労働者に対し、解雇や減給など不利益な取扱いをしてはなりません。
裁判外紛争解決手続制度(行政ADR)の整備
パートタイム・有期雇用労働者と事業主の間で労使トラブルが発生した際は、都道府県労働局の紛争解決手続制度を利用できるようになりました。この制度の利用は無料(非公開)で、労使双方または一方からでも請求が可能です。また、この手続きは、紛争の解決だけでなく、均衡待遇や待遇差の内容・理由の説明を求めることも対象となります。
※行政ADRとは、事業主と労働者との間の紛争を、裁判をせずに解決する手続きのことをいいます。
事業主が講ずべき措置
パートタイム・有期雇用労働法の対応として、会社は従業員の雇用形態と待遇を確認し、待遇の格差がないかどうかを確認する必要があります。もし合理的ではない「不合理な待遇格差」が設けられている場合は、早急に対応する必要があります。
労働者の雇用形態の確認
パートタイム労働者や有期雇用労働者を雇用しているかどうかを確認します。正社員と比べて、所定労働時間の短い労働者や、雇用期間に定めのある労働者の雇用の有無を確認します。
☞パートタイム労働者や有期雇用労働者を1人も雇用していない場合、パートタイム・有期雇用労働法に関して対応すべき点はないため、以降の確認は必要ありません。
手当や待遇の状況の確認
パートタイム労働者、有期雇用労働者の区分ごとに、賃金(賞与・手当を含む)や福利厚生などの待遇について、正社員と違いがあるかどうか確認します。正社員には支給されているのに、パートタイム労働者、有期雇用労働者には支給されていない手当などを書き出していくという作業になります。
待遇差がある場合はその理由の確認
正社員と、パートタイム労働者・有期雇用労働者との間で、働き方や役割(業務の内容や責任の程度)などが異なるのであれば、それに応じて賃金(賞与・手当を含む)や福利厚生などの待遇差が生じることはあり得ます。そのため、待遇差が、働き方や役割(業務の内容や責任の程度)などの違いに見合った「不合理ではない」ものとなっていないかどうかを確認します。
説明内容の整理
事業主は、労働者の待遇の内容や、待遇を決定するに際して考慮した事項などについて、パートタイム労働者・有期雇用労働者から説明を求められた場合には説明することが義務付けられます。そのため、正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間に待遇差がある場合、その差が「不合理ではない」ことを説明できるように事前に整理しておく必要があります。
☞賞与の支給に関して、正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間で待遇差を設ける場合
■賞与の支給要件■ | ① 正社員:賃金の1か月~3か月分を会社業績への貢献度に応じて支給する。 ② パートタイム労働者/有期雇用労働者:賞与として賃金の1か月分を一律で支給する。 |
■待遇差の理由■ | ☞正社員については、業務ノルマを設定しており、それらノルマの達成率を考慮し、会社への貢献度を判断して賞与を決定している。一方、パートタイム労働者、有期雇用労働者に関しては、従事する業務が定型業務のため、一律の賞与として規定している。 |
不合理な待遇格差の是正
「不合理ではない」とは説明できない待遇差がある場合、早急に待遇差を是正する必要があります。また、「不合理ではない」と説明できる場合であっても、労働者にとってより良い雇用管理に向けて、何か改善点はないかなどについて検討します。
☞正社員と、パートタイム・有期雇用労働者との間で、「不合理な待遇差」が生じていた場合で、その待遇差を是正する際、正社員の待遇を、パートタイム・有期雇用労働者の待遇と同等にするために引き下げる場合は、「労働条件の不利益変更」に該当します。労働条件の不利益変更の場合、その変更に合理的理由が求められる他、労使間の合意や就業規則の変更などの手続きも必要となりますので、慎重に対応する必要があります。
まとめ
正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間の待遇差が「不合理ではない」としても、事業主に課せられた説明責任の中では、今まで以上に「透明性」が求められ、いかに労働者の方に「納得」をしていただけるかという点がポイントになります。各種手当や福利厚生については、それらを支給・提供する目的をもう一度「点検」し、労使間でしっかりと対話する機会も必要になると思います。
正社員とパートタイム・有期雇用労働者の方々の間の「不合理な待遇格差」を是正し、公正な待遇を確保することは、労使間の紛争を防止するだけではなく、いままで以上にパートタイム・有期雇用労働者の方々の意欲・能力を引き出すことができ、企業における生産性の向上が期待できます。
また、厚生労働省では、社内の制度が、パートタイム・有期雇用労働法に沿ったものであるか確認したり、改善に向けた取組を行ったりする際に役立つ支援ツールを用意しています。下記リンクからダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
☞関連リンク:厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」[PDF]
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