建設業における特定技能制度について
中小建設業の経営者様より、「外国人を採用して現場作業させることができるビザがあるんですよね。」、「うちの会社の建設業種でも外国人労働者を受け入れることができるんですか?」といったご質問をいただくことがあります。外国人労働者が建設現場で働くためのビザ(在留資格)である「特定技能」ですが、中小建設業の経営者様には十分に認知されていないと感じることがあります。今回は建設分野における特定技能制度について解説します。
目次
在留資格「特定技能」について
平成30年に出入国管理および難民認定法および法務省設置法の一部を改正する法律が公布され、平成31年4月から新たな在留資格「特定技能」の運用がスタートしました。この特定技能制度は、日本国内において深刻化する人手不足に対応するため、生産性向上や国内人材を確保するための取り組みを行ってもなお人材の確認が困難な産業分野において、一定の技能や専門性を有し、即戦力となる外国人を受け入れるための制度になります。
建設業界では、技能者の高齢化が顕著で、将来の担い手となる若い人材を確保することが喫緊の課題となっており、人手不足を解消すべく中長期的な建設業界の担い手を確保するため、建設業も特定技能制度の対象分野となっています。
特定技能の種類
外国人が日本に適法に在留するためには、出入国在留管理庁へ在留目的等を申請し、在留資格を取得しなければなりません。「特定技能」という在留資格には、次の2種類があります。
(1)特定技能1号 | ・相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事するための在留資格で、それぞれの分野ごとに課せられる「技能試験」および「日本語試験」に合格、または技能実習2号を良好に修了することで、該当分野に限り通算5年間までの就労が可能になる在留資格。 |
(2)特定技能2号 | ・熟練した技能を要する業務に従事し、高い技術水準を持つ外国人に対して付与される在留資格で、「特定技能1号」資格保持者が移行できる在留資格。 |
※特定技能2号については、在留期間の更新上限がなく、特定技能1号には認められない家族帯同も可能になります。また、特定技能2号が許可されて在留する外国人は、令和5年12月末時点で37人となっています。
特定技能取得までの2つのルート
在留資格「特定技能」に関して、基本的には特定技能1号からスタートすることになります。建設分野において、外国人労働者が特定技能1号を取得するルートは2つあります。それぞれのルートについて見てみましょう。
(1)ルート1(技能実習等経験者)
・技能実習2号を良好に修了した外国人、技能実習3号を修了した外国人については、技能評価試験および日本語試験が免除されます。そのため、試験免除で特定技能1号を取得することが可能です。また、在留資格「特定活動」で就労している外国人建設労働者に関しましても、技能実習2号を良好に修了していることが前提となるため、技能評価試験および日本語試験免除で「特定活動」から「特定技能1号」への在留資格変更が可能になります。
(2)ルート2(技能実習等未経験者)
・技能実習2号を良好に修了していない外国人が特定技能1号を取得するには、技能検定3級の水準に相当する技能評価試験と日本語試験両方の試験に合格する必要があります。技能評価試験と日本語試験の要件に関しては、以下の表をご確認ください。
技能評価試験 | ① 技能検定3級、または |
② 建設分野特定技能1号評価試験(※) | |
日本語試験 | ① 日本語能力試験N4以上、または |
② 国際交流基金日本語基礎テスト |
(※)一般社団法人建設技能人材機構(JAC)が実施する技能検定3級の水準に相当するもの
ルート1、ルート2のいずれかの要件をクリアし、建設特定技能外国人として就労することを希望する外国人が、受入を希望する建設会社と「特定技能雇用契約」を結び、所定の手続きを行ったのち、特定技能1号が許可されることになります。
なお、特定技能2号の在留資格を取得するためには、職長や班長としての建設現場での一定経験に加えて、一般社団法人建設技能人材機構(JAC)が実施する、建設分野特定技能2号評価試験または技能実習1級に合格すれば、出入国在留管理庁における審査を経て、特定技能1号が許可されることになります。
建設特定技能で従事可能な業務範囲
これまでの建設分野における特定技能1号は、19業務区分(18の試験区分)に分かれていました。従来の建設特定技能制度では、ある区分で特定技能の資格を取得しても、その業務以外の建設業種で就労することができませんでしたが、2022年に、建設業に係る全ての作業を大きく3つの特定技能業務区分(業務区分【土木】、業務区分【建築】、業務区分【ライフライン・設備】)に再編し、これにより、特定技能外国人が従事可能な業務範囲が拡大され、建設現場における柔軟な作業従事が可能になりました。現在所持している特定技能の資格については、その職種が分類された区分で引き続き業務を行えます。さらに、その業務が分類されている区分の他の業務も行うことが可能になります。区分統合により、従来可能であった作業ができなくなることはありません。
また、再編に伴い、特定技能1号技能評価試験も、業務区分【土木】、業務区分【建築】、業務区分【ライフライン・設備】の3つの試験区分に統合されました。例えば、業務区分【土木】の技能評価試験に合格すると、土木工事に携わる仕事に、業務区分【建築】の技能評価試験に合格すると建築工事に携わる仕事に就くことができるようになります。更に、業務区分【ライフライン・設備】の技能評価試験に合格するとライフライン・設備に携わる仕事に就くことができるようになります。
業務区分【土木】の詳細
業務区分【土木】の詳細 | |
(1)業務の定義 | ➡指導者の指導・監督を受けながら、土木施設の新設、改築、維持、修繕に係る作業等に従事 |
(2)主な業務内容 | ① 型枠施工 ② コンクリート圧送 ③ トンネル推進工 ④ 建設機械施工 ⑤ 土工 ⑥ 鉄筋施工 ⑦ とび ⑧ 海洋土木工 ⑨ その他、土木施設の新設、改築、維持、修繕に係る作業 |
(3)想定される関連業務 | ① 材料・部品の調達・搬送 ② 機器・装置・工具等の保守管理 ③ 足場の組立て、設備の掘り起こしその他の後工程の準備作業 ④ 足場の解体、設備の埋め戻しその他の前工程の片付け作業 ⑤ 清掃・保守管理作業 ⑥ その他、主たる業務に付随して行う作業 |
業務区分【建築】の詳細
業務区分【建築】の詳細 | |
(1)業務の定義 | ➡指導者の指導・監督を受けながら、建築物の新築、増築、改築、若しくは移転又修繕若しくは模様替えに係る作業等に従事 |
(2)主な業務内容 | ① 型枠施工 ② 左官 ③ コンクリート圧送 ④ 屋根ふき ⑤ 土工 ⑥ 鉄筋施工 ⑦ 鉄筋継手 ⑧ 内装仕上げ ⑨ 表装 ⑩ とび ⑪ 建築大工 ⑫ 建築板金 ⑬ 吹付ウレタン断熱 ⑭ その他、建築物の新築、増築、改築若しくは移転、修繕、模様替又は係る作業 |
(3)想定される関連業務 | ① 原材料・部品の調達・搬送 ② 機器・装置・工具等の保守管理 ③ 足場の組立て、設備の掘り起こしその他の後工程の準備作業 ④ 足場の解体、設備の埋め戻しその他の前工程の片付け作業 ⑤ 清掃・保守管理作業 ⑥ その他、主たる業務に付随して行う作業 |
業務区分【ライフライン・設備】の詳細
業務区分【ライフライン・設備】の詳細 | |
(1)業務の定義 | ➡指導者の指示・監督を受けながら、電気通信、ガス、水道、電気その他のライフライン・設備の整備・設置、変更又は修理に係る作業等に従事 |
(2)主な業務内容 | ① 電気通信 ② 配管 ③ 建築板金 ④ 保温保冷 ⑤ その他、ライフライン・設備の整備・設置、変更又は修理に係る作業 |
(3)想定される関連業務 | ① 原材料・部品の調達・搬送 ② 機器・装置・工具等の保守管理 ③ 足場の組立て、設備の掘り起こしその他の後工程の準備作業 ④ 足場の解体、設備の埋め戻しその他の前工程の片付け作業 ⑤ 清掃・保守管理作業 ⑥ その他、主たる業務に付随して行う作業 |
建設特定技能外国人材の受け入れ
特定技能外国人を受け入れる企業(または個人事業主)のことを「特定技能所属機関」といいます。企業(または個人事業主)が特定技能外国人を受け入れるためには一定の基準をクリアしなければなりませんが、建設分野特定技能に関しては、特定技能に関する一般的な基準に加え、国土交通省の定める建設分野独自の基準が設定されています。建設特定技能所属機関(受入機関)は、この基準をもとに、受入計画を作成し、国土交通大臣の認定を受ける必要があります。建設特定技能受入計画の認定基準は以下の通りになります。
建設特定技能受入計画の認定基準 |
① 受入機関は建設業法第3条の許可(建設業許可)を受けていること |
② 受入機関および1号特定技能外国人の建設キャリアアップシステムの登録が完了していること |
③ 特定技能外国人受入事業実施法人(JAC)への加入および当該法人が策定する行動規範を遵守していること |
④ 特定技能外国人の報酬が同等の技能を有する日本人と同等額以上であり、技能習熟に応じた昇給の規定が定められ、安定的な賃金支払いが確保されていること |
⑤ 契約上の重要事項(賃金等)について、書面(外国人が十分に理解できる言語で記載されたもの)での事前説明が行われていること |
⑥ 1号特定技能外国人に対し、受け入れ後、国土交通大臣が指定する講習または研修を受講させること |
⑦ 国または適正就労監理機関による受入計画の適正な履行に係る巡回指導を受け入れていること等 |
建設特定技能所属機関がすべきこと
建設特定技能受入計画の認定申請などを含め、1号特定技能外国人材を受け入れる企業(または個人事業主)が、受入予定の外国人労働者の在留資格取得までに行わなければならない事項は以下の通りになります。
建設特定技能所属機関(受入機関)がすべきこと | |
① | JACに加入 |
② | 建設キャリアアップシステムへの登録 |
③ | 特定技能雇用契約にかかる重要事項説明 |
④ | 特定技能雇用契約の締結 |
⑤ | 建設特定技能受入計画の認定申請 |
⑥ | 1号特定技能外国人支援計画の作成 |
⑦ | 在留資格認定証明書交付申請(招聘)または在留資格変更許可申請 |
これらの手順を踏んで、ようやく1号特定技能外国人を受け入れることが可能になります。また、受け入れ後も1号特定技能外国人受入報告書の提出や1号特定技能外国人受入後講習の受講など、所属機関として行うべきことがたくさんあります。建設分野における1号特定技能外国人の受け入れ等に関しまして、ご不明な点があればぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。
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