特定技能雇用契約について
特定技能雇用契約とは、在留資格『特定技能』を有する外国人の方と、特定技能所属機関(在留資格『特定技能』を有する外国人の方を雇い入れる事業者)との間で結ばれる雇用契約のことを指します。雇用契約は外国人労働者にとって不利益なものであってはなりません。そのため、入管法において、特定技能雇用契約に関する基準が詳細に定められています。今回は特定技能雇用契約について、通常の雇用契約との相違点を含め解説します。
目次
在留資格『特定技能』とは
在留資格『特定技能』は2019年4月から受け入れが開始された比較的新しい在留資格になります。その適正な受け入れを実現するため、労働者である外国人本人と、外国人を受け入れる企業に関する基準だけではなく、その雇用契約や、外国人の方に対する支援計画に関する基準も詳細に定められています。
制度の概要
(1)創設当初の時代的背景
・新しい在留資格『特定技能』は、人手不足解消を目的として、2019年4月に創設された在留資格になります。少子高齢化により労働力人口が減少する中、日本国内の人手不足は深刻な状況が続いており、当時も多くの外国人労働者が日本で就労していましたが、在留資格の制限から就労が認められる場面は限られていました。
(2)外国人労働者の受け入れに関する国の基本的施策
・外国人労働者の受け入れに関して国の基本的な考え方は、『専門的な知識や技術を有する外国人労働者は積極的に受け入れをおこなう一方、それ以外の外国人についての受け入れは慎重に対応する』というものになります。つまり、外国人労働者が現場での作業に従事することが難しい状況でした。
そのような中、外食産業や宿泊業においては、留学生をアルバイトとして採用する機会が増えてはいましたが、あくまで留学生の在留目的はあくまでも「学業」になりますので、アルバイトとしての就労は原則週28時間以内に限られます。
また、建設業や製造業など特定の業種においては、技能実習生の受入れも行われていましたが、技能実習制度の目的は「人材育成を通じて開発途上国へ技能等を移転し、その国の経済発展を促す国際協力」となっています。そのため、在留資格「技能実習」で従事できる業務の範囲は限定され、在留可能年数などにも上限があり、人手不足解消を目的として活用することは難しい状況でした。
(3)在留資格『特定技能』の創設へ
・このような状況を打開するため、ある一定の条件を満たせば、外国人労働者が現場での作業に従事することができる在留資格『特定技能』が創設されました。
在留資格『特定技能』に関しては、入管法令等において、受け入れる外国人労働者、その外国人を雇用する事業者(特定技能所属機関)、両者間の雇用契約、外国人労働者への支援計画の基準等が詳細に定められています。まずはその基準について解説します。
受け入れる外国人の基準
特定技能の在留資格で在留する外国人は『特定技能外国人』と呼ばれ、入管法令において以下の基準が定められています。なお、特定技能には1号と2号があり、求められる技能水準は、1号よりも2号の方が高いレベルを求められます。ただし、2022年6月現在、特定技能2号での受入れが予定されているのは、建設と造船・舶用工業の2分野のみとなっています。
(1)技能と日本語能力が一定以上であること ➡なお、特定技能2号については、技能水準は1号より高い水準が求められますが、日本語能力については特に基準が定められていません。この技能と日本語のレベルは、適切な試験に合格することで、それぞれ証明されることになりますが、技能実習2号を修了した外国人の方であれば、改めて試験を受ける必要はなく、両方の水準を満たす人材として評価されます。 |
(2)特定技能1号での在留期間の上限が通算で5年以内であること ➡なお、特定技能2号については、在留期間の上限はなく、適切な活動を続けていれば、更新を繰り返していくことが可能です。 |
受入機関の基準
特定技能の在留資格で在留する外国人を雇い入れる事業者は、『特定技能所属機関』と呼ばれます。制度を適切に運営していくため、所属機関としての基準が入管法令等に詳細に定められています。
(1)特定産業分野14業種に該当すること ➡特定産業分野として定められた14業種(分野)に該当する業務を行う事業所でなければ所属機関となることはできません。 |
(2)法令を順守していること ➡なお、社会保険制度への適切な加入と保険料の支払い、納税の義務を履行することも必要です。 |
(3)外国人労働者に対する支援を適切に行うこと ➡なお、この外国人に対する支援については、『登録支援機関』に委託することで基準を満たすことが可能になります。 |
支援計画の基準
1号特定技能外国人については、日本での生活に慣れていない方々もいるため、適切な支援を行っていく必要があります。そのため、特定技能所属機関は、1号特定技能外国人の受け入れに際し、支援計画を作成する必要があり、その基準も詳細に定められています。
(1)言語面での支援 ➡日本語学習の機会の提供や、母国語等での相談対応といった支援が必要になります。 |
(2)生活面での支援 ➡住居の賃貸借契約や銀行口座の開設等をサポートすることも必要な支援として規定されています。 |
(3)仕事面での支援 ➡職場での人間関係での悩みなどについて、定期的に面談できる体制を整備することなども必要な支援として規定されています。 |
雇用契約の基準
特定技能所属機関と特定技能外国人との間で結ばれる雇用契約は『特定技能雇用契約』と呼ばれます。雇用契約は、使用者と労働者が対等な立場で結ぶものですが、転職等の自由度が低い特定技能外国人は、日本人の一般労働者に比べ、使用者との交渉の機会も制限されることもあり、雇用契約が外国人労働者にとって不当な契約とならないよう、この雇用契約の内容についても細かい基準が定められています。
以下、この『特定技能雇用契約』を結ぶにあたっての基準や留意点について詳しく見ていきましょう。
特定技能雇用契約の基準
入管法令において、特定技能雇用契約に関する基準が詳細に定められています。以下、特定技能雇用契約について、その基準や通常の雇用契約との相違点などを詳しく見ていきましょう。
従事する業務内容について
1号特定技能外国人の担当する業務が、『相当程度の知識または経験を要する業務』である必要があり、どのような業務でも担当させてよいというわけではありません。
(1)基準
(a)おおむね各分野の3級技能士レベルの技能者が担当するような業務であること |
(b)特定技能外国人が従事する業務と同等の業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務に付随的に従事することも可能であること ➡ただし、関連業務への付随的従事が1日あたりどの程度許容されるかどうかは、特定技能外国人の技能や業種によって個々に異なります。 |
(2)留意点
(a)従前の特定産業分野の範囲内で業務区分に変更が生じた場合は、特定技能雇用契約に係る届出書をもって、変更後の業務区分について出入国在留管理庁へ届け出ること ➡なお、変更後の業務区分に対応する相当程度の知識もしくは経験を要する技能を有していること、または熟練した技能を有していることを証明する資料(技能試験の合格証明書等)を届出書に添付しなければなりません。 |
(b)業務区分の変更が、特定産業分野の変更を伴う場合にあっては、在留資格変更許可申請を行う必要があること |
所定労働時間について
特定技能外国人の所定労働時間が、特定技能所属機関に雇用される通常の労働者の所定労働時間と同等である必要があります。特定技能外国人は、フルタイムでの業務に従事することが想定されているため、比較対象となる「通常の労働者」とは、パートタイマーやアルバイト従業員ではなく、フルタイムの一般労働者を指します。
(1)基準
(a)特定技能外国人の所定労働時間は、特定技能所属機関に雇用される通常の労働者の所定労働時間と同等であること |
(2)留意点
(a)特定技能制度における「フルタイム」とは、原則労働日数が週5日以上かつ年間217日以上であって、かつ、週労働時間が30時間以上であることとする ➡なお、比較対象となるフルタイムの従業員に適用される就業規則において規定されている所定労働時間が週40時間であれば、特定技能外国人の所定労働時間も40時間ということになります。 |
(b)所定労働時間に関しては、特定技能外国人と結ぶ雇用条件書に必ず記載が必要であり、雇用条件書は、特定技能外国人が十分に理解できる言語により作成し内容を十分に理解したうえで本人より署名を受ける必要があること |
報酬額について
日本人と同等以上の報酬額を設定していること。特定技能外国人に対する報酬が、日本人が従事する場合の報酬の額と同等額以上である必要があります。
(1)基準
(a)特定技能外国人に対する報酬が、日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること |
(b)特定技能制度における「報酬」とは、「一定の役務の給付の対価として与えられる反対給付」をいい、一般的に通勤手当、扶養手当、住宅手当等の実費弁償の性格を有するもの(課税対象となるものは除く)は含まれないこと |
(2)留意点
(a)地方出入国在留管理局への在留資格諸申請の際、「特定技能外国人の報酬に関する説明書」を提出することとなり、この説明書において、申請人に対する報酬が、日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であることを説明する必要があること |
(b)報酬体系に関しては、月給制に限定されているわけではなく、時給制でも問題はないこと(建設分野は除く) |
比較対象となる日本人労働者について、特定技能外国人は、技能実習2号修了者であればおおむね3年間、技能実習3号修了者であればおおむね5年間、日本に在留し技能実習を修了した者であることから、従事しようとする業務について、おおむね3年程度または5年程度の経験者として取り扱う必要がありますので、1号特定技能外国人の報酬の額については、技能実習生を受け入れている場合には、技能実習2号修了時の報酬額を上回ることはもとより、実際に3年程度または5年程度の経験を積んだ日本人の技能者に支払っている報酬額とも比較し、適切に設定する必要があります。比較対象となる日本人がいない場合には、賃金規程等から判断することになります。
有給休暇の取得について
(1)基準
(a)特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合、必要な有給休暇を取得させる必要があること |
(2)留意点
(a)特定技能制度においては、通常の有給休暇だけにとどまらず、特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合は、必要な有給または無給休暇を取得させることを「雇用条件書」で定める必要があること |
例えば、10日の有給休暇をすべて消化してしまった特定技能外国人から、一時帰国のための休暇を取得したいとの申し出があった場合、追加的な有給休暇の取得や無給休暇を取得することができるよう配慮しなければなりません。また、特定技能外国人の家族が「短期滞在」で来日した場合、家族と過ごす時間を確保するため、有給休暇を取得することができるよう配慮する必要があることも規定されています。
帰国旅費について
(1)基準
(a)特定技能外国人が帰国する際の帰国費用は、原則本人負担となるが、特定技能外国人が自ら帰国費用を負担できないときには、特定技能所属機関が帰国費用を負担するほか、航空券の予約や購入等、出国が円滑になされるよう必要な措置を行う必要があること |
(2)留意点
(a)特定技能所属機関は、特定技能外国人が帰国に要する旅費を負担できないときは、帰国することとなる原因を問わず帰国旅費を負担する必要があること ➡ただし、特定技能外国人が行方不明となった場合は除きます。 |
(b)この帰国費用を確保しておくために、特定技能外国人へ支払う報酬から、帰国旅費費用を控除するなどして管理することは認められないこと |
報酬の支払い方法について
(1)基準
(a)特定技能外国人への報酬の支払いに関しては、本人の同意を得たうえで預金口座への振込みを原則とすること |
(2)留意点
(a)特定技能外国人への報酬の支払いを口座への振込みとした場合、四半期ごとに行う特定技能外国人の活動状況に関する届出の際に、口座振込明細書や取引明細書等の写しを添付する必要があること |
保証金や違約金徴収の禁止について
(1)基準
(a)特定技能雇用契約の締結時に、保証金の徴収や違約金契約の締結がされていないことを確認していること |
保証金や違約金契約による制約は強制労働につながりかねないため、特定技能雇用契約においても厳しく禁じられています。「保証金」とは、仲介業者等が受入れ企業を紹介する際に、外国人から預かる金銭を指します。契約した期間を満了することができれば、保証金は返還されますが、仮に途中退職してしまった場合には、保証金は回収されてしまいます。「違約金」とは、受入れ企業で契約期間を満了することができず、途中退職してしまった特定技能外国人から徴収する金銭を指します。
➡いずれも途中退職や失踪の防止を目的としていますが、特定技能外国人からすれば、「退職することによって失うお金がある」ことになるため、不当な労働環境であっても、自由に退職することができなくなる可能性があり、強制労働につながる恐れがあります。
(2)留意点
(a)特定技能所属機関と特定技能外国人との間においても、保証金の徴収や違約金契約の締結は認められないこと |
支援に要する費用負担について
1号特定技能外国人に対する支援に要する費用は、特定技能所属機関等がすべて負担すべきものであり、1号特定技能外国人に直接または間接的にも負担させることは認められません。
(1)基準
(a)1号特定技能外国人に対する支援に要する費用は、特定技能所属機関等がすべて負担すべきものであり、1号特定技能外国人に直接または間接的にも負担させることは認められないこと |
(2)留意点
(a)特定技能雇用契約における「支援に要する費用」とは、例えば、特定技能外国人の出入国時の送迎に要する交通費や事前ガイダンス・生活オリエンテーション・定期面談実施の際に要する通訳費用など、特定技能外国人に対して行われる各種支援に必要な費用をいうこと |
(b)特定技能外国人受入れにあたっては、事前ガイダンス等において、支援に要する費用を直接または間接的にも負担させないことについて説明する必要があり、説明を受けた証明として、支援計画書および事前ガイダンス確認書に特定技能外国人本人より署名を受け、出入国在留管理局へ提出する必要があること |
在留資格『特定技能』の現状と今後
・特定技能の在留資格で日本に滞在する外国人の人数は、2022年4月の段階で約6万4千人となっており、在留資格・特定技能が創設された当初は、2024年3月までの5年間で約34万5千人を上限に見込んでいたことからすると、現在の人数は予測を大幅に下回っています。
その原因として、新型コロナウイルス感染対策による入国制限が最大の要因となったことは間違いありませんが、それ以外にも、他の在留資格に比べて条件が非常に厳しく、受け入れ体制の整備や申請書類などの手続きが煩雑であったこと、特定産業分野ごとの試験実施や加入義務のある協議会運営が遅れたこと、技能実習といったほかの在留資格との違いなど、制度の理解不足で外国人本人も受け入れ側の企業も申請に踏み切れなかったことなどが挙げられます。
・しかし、コロナ対策により2020年12月から制限されていた外国人の新規入国が、今年3月に再開されました。政府は6月1日、新型コロナウイルスの感染状況改善を踏まえ、入国者数の上限を1日2万人まで引き上げています。アフターコロナ社会における経済復興を目指す中、国内の人手不足解消を図るうえで、在留資格『特定技能』の果たす役割は非常に大きいものとなることには疑いはなく、特定技能で就労する外国人労働者が爆発的に増加することも見込まれます。
今後いっそう増加することが見込まれる特定技能外国人の方々にとって、不当な労働契約とならないような雇用契約を結ぶこと、そしてその契約内容は必ず遵守することが非常に大切です。特定技能雇用契約のより細かい詳細や、特定技能雇用契約書及び雇用条件書の作成についてご不明な点があればぜひ当事務所へお問い合わせください。
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